森林伐採と土砂崩れの関係、森林を活用した土砂崩れの防止策
山の多い日本は、台風や大雨などで土砂崩れが発生しやすい国土環境にあります。また、近年は集中豪雨などにより、土砂崩れに関するニュースやその被害を目にする機会も増えています。
こうした災害が起きた時、山地の森林伐採が土砂崩れに繋がっていると考える方も多いようですが、樹木の生い茂った斜面が崩れ落ちることも珍しくありません。
そこで今回は、日本における森林伐採と土砂崩れの関係や、森林を活用した土砂崩れの防止策などについてご紹介します。
目次 [非表示]
1.土砂崩れのメカニズム
森林伐採と土砂崩れの関連についてご紹介する前に、まずは土砂崩れのメカニズムについて解説します。
土砂崩れとは、斜面表層の土砂や岩石が地中のある面を境にして滑り落ちる現象のことを言います。
もともと斜面の表層は重力で常に下へ引っ張られていますが、地盤の摩擦力などそれに抵抗する力によってその位置を保持しています。
しかし、大雨や地震などで重力が抵抗力を上回ると、地層の表層の一部が断ち切られ、岩盤の上に乗っている土砂が崩れ落ち、土砂崩れとなります。
2.森林伐採と土砂崩れの関係
ここからは、森林伐採と土砂崩れの関連性をご説明します。
樹木の細根には、網のように土壌層をつなぎ止め、基岩層の亀裂まで入り込み、すべり面(土壌層と基岩層の境)を固定する機能があります。これが、地盤の浸食や崩壊を防ぐ役割を果たしています。
また、落ち葉が混ざり込んだ隙間が多い土壌は、降水時の水分を多く吸収し、地表流の発生を抑える働きがあります。
しかし、森林伐採によって樹木が減少すると、すべり面のストッパーとなるものがなくなり、傾斜が急な場所ほど土砂崩れが発生しやすくなるのです。
3.森林があるにも関わらず土砂崩れが増えている原因
前章では、森林が伐採された場所では土砂崩れが起きやすくなるとご説明しましたが、実は日本の森林面積は50年前とほとんど変わりません。
しかし、山地に樹木が生い茂っているにも関わらず、大雨や台風による土砂崩れで住宅が倒壊し、多数の死傷者を出すといった事故が増えています。
森林があるのに、なぜ土砂崩れが増えているのでしょうか。ここからは、その要因を考察していきます。
人工林の管理不足
日本の森林面積はほとんど変わりませんが、その内訳を見ると天然林が減少し、人工林の比率が拡大しています。
下刈りや間伐などで定期的に手入れされた人工林は、根の発達が促されて風雪害に強い森林となるほか、林内の光環境が良く、下層植生が繁茂し、表土の流出を防ぐという本来の役割を果たす森林になります。
しかし、1980年をピークに林業産出額が減少の一途を辿っています。
林業の採算性が悪化しているほか、林業離れによる後継者不足や就業者の高齢化などもあって、資源として利用できる森林蓄積は年々増えているにも関わらず、多くの人工林がそのまま放置されているのが現状です。
下刈りや間伐がされない山の地表は日光が届かず、草木の根が張らないため、土が痩せていきます。このような状況で大雨や台風などが発生した場合、根が水を吸いきれずに土砂崩れが発生しやすくなってしまうのです。
異常気象の増加
近年は「〇〇市は1日で200㎜の降雨を観測」など異常気象が増えていますが、そんな猛烈な雨が手入れされていない人工林に降った場合、やはり根が水を吸い切れず土砂崩れを引き起こす恐れがあります。
手入れされている人工林は下層植生の発達が良好であり、雨水が染み込みやすい枯れ葉を含んだ土壌を作ります。そこに降った雨は地中をゆっくりと移動し、澄んだ水となって川などに流れ出ます。しかし、手入れされていない人工林では下層植生が衰退し、水が浸み込みにくい土壌になるため、雨水は素早く地表を流れ落ちることになります。
これは水源かん養機能と呼ばれ、この機能が下がると、とてつもない量の雨が降った場合、表土の流出はもちろん、土砂崩れのリスクが高まります。
4.森林を活用した土砂崩れの対策
最後に、森林を活用した土砂崩れの対策を3つご紹介します。
①.人工林の手入れ
人工林を機能させるためには、間伐などによって森林を育てる手入れを定期的に行う必要があります。
現在は植栽以降放置されている人工林が目立ちますが、植栽後も下刈りや除伐、間伐、主伐など手入れを継続することで、残存木の幹は太くなり基岩層の亀裂に根を張り、地盤の浸食や崩壊を防ぐ機能を取り戻します。
また、人工林の手入れを行うことで、森の中に日光が差し込み、今まで発芽できなかった色々な木の種子が育ち、本来の天然林の再生を目指すこともできます。
②.野生鳥獣による森林被害を防ぐ
人工林を手入れしても、鹿や熊など野生鳥獣の食害や剥皮被害を防がないことには、土砂崩れに強い森林を整備することはできません。
林野庁によると、2015年度の野生鳥獣による森林被害面積は約7万8000haであり、年々拡大傾向にあります。これを放置すると、下層植生の消失や剥皮による森林の枯死などで土砂崩れのストッパーが減り、災害のリスクが高まります。
人工林が災害時に有効に機能するためにも、防護柵や食害防止チューブなどの設置、駆除による適切な個体数の管理といった対策が必要になります。
③.広葉樹林の保全
土砂崩れ対策として、人工林だけでなく広葉樹(天然林)の保全も有効です。
その場所で育った広葉樹林は、多様な樹種を持ち、地域への適応力も強い森林です。現在の植生が持っている表面侵食防止機能や土砂崩壊防止機能を守るために、不用意な伐採を避けるなどの保全が求められます。
その植生の維持や健全化のためには、天然更新や樹木の成長を助ける作業など、天然林であっても人手による管理が不可欠です。
5.まとめ
現在の日本の森林は、過伐採ではなく人工林の放置などが原因で土砂崩れが多発している状況といえます。
国内林業の採算悪化や人手不足などの問題はありますが、異常気象の増加で土砂災害のリスクは増えています。少しでもその被害を減らすために、人工林や広葉樹林の管理の徹底が求められています。