水質汚染による病気が減らない理由とその対策
現在の日本は、世界でも数少ない水道水が飲める国ですが、世界を見渡すと水を飲んだだけで病気になり、最悪の場合死に至る国や地域もあります。
水質汚染が問題となっている国の中には、日本に匹敵する工業力を持つ国もありますが、なぜ病気になるほど水が汚染されているのでしょうか。
そこで今回は、世界で水質汚染による病気が減らない理由や、病気を減らすための対策などについてご紹介します。
目次 [非表示]
1.水質汚染と病気の関係
水質汚染と病気は相関関係にあります。
日本でも、以前は工場排水による汚染などが原因でイタイイタイ病や水俣病が発生し、現在に続く大きな被害を出しました。その後、排水処理の技術や基準が改善されたことなどにより、水質汚染による病気にかかる人は激減しています。
一方、世界では現在も水質汚染が原因で病気になる人が多数存在します。
特に、アフリカや東南アジアなど一部の国では、汚染されているとわかっていても、その水を飲まざるを得ない状況が続いており、病人は減る兆しがありません。また、先進国であっても、水の浄化システムの発展不足で水道水が飲めない国も存在します。
2.世界で水質汚染による病気が減らない理由
日本では水質汚染で病気になる人は激減しましたが、海外ではなぜ減らないのでしょうか。ここでは、主な3つの理由をご説明します。
理由①.上水設備・下水処理設備の不足
水質汚染による病気が減らない理由として真っ先に思い浮かぶのは、途上国における上水設備・下水処理設備の不足です。
例えば、独立行政法人国際協力機構JICAによると、上水設備の不足により、途上国を中心に約6億6000万人が安全な飲料水を利用できていないとしています。やむを得ず安全でない水を飲むことで、コレラや赤痢などに罹患し、年間で約50万人が死亡しているといわれています。
また、日本など優れた水処理技術を持つ国が、途上国で定期的に浄水処理装置や給水装置の設置などを行っていますが、現地で適切に管理できず、故障しても修理ができないまま放置されるという現実もあります。
理由②.工業排水の不適切な処理
途上国はもちろん、多くの先進国においても、工業排水の不適切な処理による水質汚染が深刻化しています。
工業排水とは工場や事業所などから出される排水で、かつて日本でも被害が続出した水俣病やイタイイタイ病などの公害病は、工業排水に含まれる有害物質が原因でした。
日本においては、法規制や下水道の整備などによって工業排水が原因の病気にかかる人は激減しましたが、世界の下水道整備が普及していない地域では、処理されずにそのまま川や海へと垂れ流しているのが現状です。
国や地域によっては、汚染された水だとわかっていても、飲料として使用しなければならない状況であり、病気になる人が一向に減らないのもうなずけます。
理由③.井戸や池の水
東南アジアやアフリカでは、人の手で掘った浅井戸や池、沼などの水を飲まざるを得ず、様々な病気に悩まされる人が多くいます。
浅い井戸や池の水は、周囲の砂や雨、家畜の糞尿など、あらゆるものが入り込みます。当然、水質は汚染され、細菌や虫が発生し、慢性的な下痢や結膜炎、強い痛みをともなうメジナ虫病などを引き起こします。
ユニセフによると、アフリカのマリでは、4.6人に1人が5歳になる前に亡くなり、その死亡要因の約15%は汚染された水による下痢という報告があります。
3.水質汚染による病気を減らすための対策
世界中の汚染水による被害を減らすために、2015年に「持続可能な開発目標(SDGs)」が国連で採択され、水質改善への取り組みが加速しています。
SDGsでは、ゴール6の「安全な水とトイレを世界中に(水・衛生分野)」に関して、以下の目標を設定しています。
“全ての人々に水と衛生施設へのアクセスと持続可能な管理を確保すること”
引用:独立行政法人国際協力機構
https://www.jica.go.jp/priv_partner/activities/sdgsbvs/kaihatsu/ku57pq00002azxod-att/171012_water.pdf
【2030年までの目標】
・すべての人々の安全な飲料水へのアクセスを可能にする。
・衛生施設と衛生的行動へのアクセスを達成する。
・有害物質の不法投棄の撲滅・排出を最小化する。
・水不足を解消し、持続的な取水と淡水供給を可能にする。
・国際流域における総合的水質管理をする。
【2020年までの目標】
・水関連の生態系を保護・修正する。
こうした取り組みにより、発展途上国などでの劇的な水環境の改善が期待されています。
4.水質汚染による病気を減らすための身近な対策
国家や企業が対策を講じるのは当然でありその取組みも進みつつありますが、水質汚染による病気の撲滅のためには、個人レベルでの意識改革も不可欠となっています。
食に恵まれた日本では食べ物を残す人も多くいますが、下水処理の過程では大量の水とエネルギーを消費しています。
例えば、ラーメンの残り汁(200㎖)に990ℓ、牛乳コップ1杯(200mℓ)に3000ℓ、みそ汁おわん1杯に1410ℓの水が浄化に必要になります。
そのため、こうした下水処理を行わずそのまま川や海に流す国も多く、食べ残しで汚染された水を飲用すれば、もちろん病気のリスクが高くなります。
食べ残しに対する意識改革の他にも、水質改善募金への協力など、1人1人の行動の積み重ねが、水質汚染の病気に苦しむ人々の減少に寄与します。
5.まとめ
日本は、水質に関して安心できる国となりつつありますが、世界の人々にとって水質汚染は、まだ身近な問題といえます。
国や企業、個人の活動が、世界における水質の改善、ひいては病気の根絶につながるため、常に水質汚染に対する意識を持ち、解決に向けたアクションを起こしていくことが大切です。