日本の大気汚染の原因と対策
日本の経済発展の影に、大気汚染があります。発展の代償として健康被害が拡大し、大きな社会問題となった過去があります。
経済が成熟した現在は、健康被害を訴える人こそ減りましたが、未だに私たちの生活を脅かしていることに変わりはありません。
今回は、日本の大気汚染の歴史から、現代日本の大気汚染の原因、その対策などをご紹介します。
1.日本の大気汚染の歴史
日本の大気汚染の歴史は、「公害」という言葉が定着していなかった明治政府の殖産興業政策時代まで遡りますが、問題が激化したのは昭和30年代の高度経済成長期からです。
その時代、戦後復興や国民の所得増などに必要なエネルギー源を確保するために、大量の石油、石炭が燃やされ、硫黄酸化物を中心とした汚染が深刻化しました。そのため、全国の工業都市では、四日市ぜんそくに代表される呼吸器障害に罹患する人が続出しました。
全国で公害反対運動が激化したことから、公害対策に関する施策が進められることとなり、以降は大気汚染防止法の制定をはじめとする各種規制や、省資源・省エネルギー化の推進などもあって、産業公害型の大気汚染は大きく改善しました。
しかし、近年では自動車などに由来する都市・生活型の大気汚染が顕在化しており、経済成長著しいアジア地域からの越境大気汚染も目立つようになりました。
これらの問題に対し、政府では自動車排出ガス規制の強化など様々な政策を講じていますが、国が健康や環境の保全のために定めた環境基準には、まだ足りていないのが現状です。
2.日本の大気汚染の主な原因
現代の日本における大気汚染の主な原因は以下の3つです。
・生産活動
・自動車
・越境大気汚染
①.生産活動
高度経済成長期などと比較すると劇的に改善していますが、現在も工場や火力発電所などから、硫黄酸化物や窒素酸化物といった大気汚染物質は排出されています。
これらの大気汚染物質は大気汚染防止法で規制されているため、各社は気体中の粒子状物質を分離除去する集塵装置や、排出ガス中の硫黄酸化物や素酸化物を除去する排煙脱硫・排煙脱硝などの技術によって削減に努めています。
しかし、資源エネルギー庁の部門別最終エネルギー消費によると、2010年度から2017年度の間は微減にとどまっています。
大気汚染物質を削減する技術は年々進歩していますが、さらなる汚染物質削減のためには、生産時のエネルギー消費自体を効率化し、削減させることが求められています。
②.自動車
自動車での移動や保有台数の増加、大都市の交通集中なども日本の大気汚染の原因となっています。
政府は、自動車の排出ガス規制の強化などを行っていますが、環境基準の達成が思わしくないのが現状です。
実際に、環境省の2017年度大気汚染状況によると、自動車排出ガス測定局で微小粒子状物質(PM2.5)の環境基準達成率が前年度比1.9%減となっているほか、光化学オキシダント(Ox)に至っては達成率0%と極めて低い水準となっています。
ただし、浮遊粒子物質(SPM)、二酸化窒素など、その他の大気汚染物質の達成率は100%もしくは100%に限りなく近いものとなっており、達成率が思わしくないPM2.5なども、排出規制の強化や新技術の開発により改善するのではと期待されています。
③.越境大気汚染
産業発展が進むアジア地域の火力発電所、工場、自動車などの燃料消費による大気汚染が日本にも影響を及ぼしています。
化石燃料を燃焼すると窒素酸化物(NOx)や揮発性有機化合物(VOC)など大気汚染物質が大気に放出され、有害な光化学オキシダント(Ox)が生成されます。日本では発生源規制によってこれらの汚染物質は年々減少していますが、国内のOxが一向に減少しないのは越境大気汚染が主な原因と考えられています。
国立環境研究所によると、1980年から2003年までのアジア全体のNOx、VOCの排出量の増加率は、NOxはアジア全体で2.8倍、東アジアでは2.6倍、VOCはアジア全体で2.1倍、東アジアでは2.4倍となっています。
特に中国はNOx3.8倍、VOC2.5倍と、非常に増えていることが分かります。
3.日本の大気汚染対策
現在の日本の大気汚染の主な発生源は、工場・事業場などの固定発生源と自動車・航空機などの移動発生源の2つに分けられます。
特に移動発生源の自動車から排出される窒素酸化物(NOx)による大気汚染は深刻であり、自動車排出ガス規制、低公害車の普及促進など国を挙げた施策が推進されています。
自動車から排出される汚染物質を削減するための特別措置法「自動車NOx・PM法」に基づき、あらゆる取り組みが進められていますが、特にNOx対策として注目されているのが電気自動車の普及です。
電気自動車はバッテリに蓄えた電気を使いモータで走るため、排気ガスは一切なく、通常の自動車より汚染分質や二酸化炭素(CO2)の排出が少ないことが特徴です。
さらに、太陽電池などの再生可能エネルギーによる充電が一般的になれば、発電所からの排出を考慮する必要もなくなり、自動車によるNOxやCO2の排出量はゼロにできます。
このように、大きな期待を寄せられている電気自動車ですが、車両価格やメンテナンス費用の高額さ、走行距離の短さ、充電スタンドの不足といった課題があり、本格的な普及に向け、さらなる技術開発が待たれています。
4.大気汚染を改善する身近な取り組み
大気汚染の問題は、国や企業による取り組みも重要ですが、私たち一個人も意識を変えることが汚染物質の削減に寄与します。
例えば、自動車の使用を控えて、徒歩や自転車で移動する。家庭で無駄な電力を使わない工夫をする。など、省エネを実践することで、排気ガスの削減や発電時の大気汚染物質排出を抑えられます。
こうした草の根的活動が、最終的に大気汚染物質を減らし、環境を改善させます。私たち1人1人が果たす役割は決して小さくないと認識し、行動することが求められています。
5.まとめ
現在の日本では、高度経済成長期のような大気汚染による健康被害は激減しましたが、依然として自動車の排気ガスなどによる大気汚染は深刻です。
国や企業が大気汚染の防止策を推進していますが、ひとりひとりが省エネルギーなどを心がけ、大気汚染物質の削減に努めることが、大気汚染を改善する大きな力になります。