世界の貧困の現状と主な要因~SDGs~
「持続可能な開発目標SDGs(エスディジーズ)」とは、地球規模で抱えている様々な問題を解決するために2015年に国連で採択された国際目標です。
2030年までに達成する17のゴール・169のターゲットが掲げられており、その中のひとつに、貧困撲滅があります。
このように世界的な問題となっている「貧困」ですが、今どれだけの人が貧困に苦しみ、何が原因で起こるのでしょうか?
今回は、貧困の現状とその原因、SDGsが掲げる貧困撲滅についてご紹介します。
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1. 世界の貧困の現状
2015年10月、世界銀行は貧困の基準を1日1.9ドル以下の収入と設定しました。これは2011年の購買力評価(PPP)に基づいており、2015年10月以前は1日1.25ドルでした。(購買力評価とは、世界各国の物価データを元に割り出されます)
1日1.9ドルの収入は日本円でおよそ210円。世界銀行のデータによると、およそ7億3600万人がこのわずかな収入で生活しており、世界人口の約10%、日本人口の6~7倍の人々が貧困にあることを示しています。
1990年の世界の貧困率はおよそ36%であり、2015年の貧困率10%という数字は、大きな改善とみられるものの、撲滅となると依然として課題は山積みだと言われています。
まずは、貧困問題で特に重大とされる、以下2つの問題についてみていきましょう。
・貧困による子どもの死亡率
・貧困の地域格差
貧困による子どもの死亡率
貧困による子どもの死亡率が重大な問題となっています。国連の「死亡率推計に関する機関間グループ(IGME)」の報告書によると、2017年に死亡した15歳未満の子どもは推計630万人で毎日およそ1万7000人が亡くなっていることになります。
そのうち540万人が5歳未満児で、その50%はサハラ以南アフリカ、30%は南アジアです。
他にも国連開発機構のデータでは、世界の5歳未満児の死亡数は2007年で900万人、1990年には年間1260万人だったことと比較すると徐々に改善されていますが、まだまだ多くの子どもが亡くなっているのが現状です。
5歳未満児の死亡者のうち、約4割は生後1ヶ月以内の新生児期に亡くなっています。死亡原因は、「技術のある助産師が立ち会わない出産」や「不十分な健康管理・不衛生な環境」を起因とした、「肺炎」「マラリア」「はしか」といった多様な感染症・合併症です。
こうした環境に貧困が影響していることは、容易に想像できます。
貧困の地域格差
国連開発計画とオックスフォード貧困・人間開発イニシアティブが2018年に発表した「多次元貧困指数(MPI)」によると、多次元貧困層の83%はサハラ以南アフリカと南アジアです。
多次元貧困指数とは、所得だけでなく、健康、教育、生活水準の3つの次元から貧困層を定義する指標であり、いくつもの種類の貧困に同時に直面している人々を、多次元貧困層と呼んでいます。
サハラ以南アフリカでは、人口の58%にあたる5億6000万人が、南アジアでは人口の31%にあたる5億4600万人が多次元貧困層にあたります。これらの地域ではさらに貧困層が拡大しており、他の地域との格差が広がっています。
一方インドでは、2005年から2015年にかけて2億7100万人が貧困を脱し、貧困率も55%から28%に半減するなど、大きく改善が見られます。
2. 貧困が及ぼす影響
貧困が及ぼす影響は、飢餓や栄養失調・感染症など様々ありますが、健康被害にとどまらず「教育格差」「医療格差」「性差別」といった問題も生じています。
教育格差
貧困地域に住む子ども達の多くは幼い頃から働かされるなど、満足な教育を受けられないケースが多く見られます。
学校に通うお金もない上、親の教育への意識も低い傾向にあります。子ども達が教育を受けないと、経済発展も見込めませんが、生きるためには働かないといけないというジレンマも存在します。
医療格差
貧困地域では満足な医療が受けられず、「マラリア」や「はしか」といった予防できる感染症の予防処置もできません。
先進国では助かる疾病でも医療整備が不十分であるため、助けられるはずの命も失っています。
性差別
教育格差と繋がる部分ですが、性差別も生まれています。
国際協力機構によると、小学校に通う可能性がない女子の人数は男子の1.5倍とされ、特に貧困地域では女子の教育が軽視される傾向が強くみられます。
3. 貧困の主な要因
次に、貧困の主な要因についてみていきます。
政治・経済
最も貧困層が多いとされる南アフリカでは、植民地時代の人種隔離政策・奴隷制度の影響が残り、未だに十分な収入を得られない人が多くいます。
貧困地域では、子ども達への教育も行き届かないため、なかなか経済発展ができません。
経済発展ができないことで、医療や教育の浸透が遅れ、資源を奪い合う紛争が発生するなど、さらに貧困が広がる悪循環が生まれます。
紛争・難民
「紛争」も貧困を生む大きな要因です。紛争が起こる理由は宗教・人種・民族・政治など様々ありますが、紛争により職や住居を失うことで難民となってしまいます。
内戦が続く南スーダンや、緊張が高まっている中近東、治安悪化が続くベネズエラなどからは多数の難民が発生し、国連 UNHCR協会によると7144万人の難民がいるとされています。一度難民になってしまうと、住居もなく、収入を得ることも困難になり、貧困から抜け出すことが難しくなります。
また、国の財政も大きなダメージを受けるため、医療不足や食料不足が加速し、栄養失調や感染症にかかる人が増えるなど、貧困の悪循環に陥ってしまうのです。
災害
災害も貧困をもたらす一因です。世界銀行によると、自然災害によって年間2600万人が貧困状態に陥っています。
サハラ以南アフリカでは、干ばつによって作物の収穫量が減少し、水不足により感染症の「コレラ」も流行しやすくなり、問題となっています。
ミャンマーでは2008年のサイクロンで大きな被害を受け、農民達はサイクロン後の借金返済のために、農地などの土地を売却しなければなりませんでした。
また、インドなどの南アジアでは、豪雨による洪水で作物が全滅することがあり、貧困者を増加させています。
4.貧困撲滅に向けた国際目標 SDGsゴール1
SDGsとは、2015年9月の国連サミットで採択された、2016年から2030年までの国際目標です。持続可能な世界を実現するための17のゴール・169のターゲットから構成されています。 17ゴールのうち、1番最初に挙げられているゴールが「貧困をなくそう」です。
「ゴール1. 貧困をなくそう」で挙げられている主なターゲットは以下の3つです。
1.2030年までに、現在1日1.25ドル未満※で生活する人々と定義されている極度の貧困をあらゆる場所で終わらせる。
2.2030年までに、各国定義によるあらゆる次元の貧困状態にある、すべての年齢の男性、女性、子どもの割合を半減させる。
(貧困には「相対的貧困」もあります。先進国に暮らす人でも、物価や格差による相対的な評価によって、相対的貧困と定義される人もいます。SDGsではこういったタイプの貧困も半減させることをターゲットにしました。)
3.各国において最低限の基準を含む適切な社会保護制度及び対策を実施し、2030年までに貧困層及び脆弱層に対し十分な保護を達成する。
他にもSDGsでは、「ゴール2. 飢饉をゼロ」「ゴール3. すべての人に健康と福祉を」「ゴール4. 質の高い教育をみんなに」といった貧困解決に関わる目標を設定しています。
※2020年現在の国際貧困ラインは2015年10月に設定された1日1.9ドルですが、同年9月に採択されたSDGsは以前の貧困ライン1.25ドルで設定されています。
5.まとめ
世界には1日210円以下で暮らしている人々がおよそ7億3600万人もいます。貧困によって多くの子ども達が犠牲になり、地域格差なども広がっています。
各国が様々な取り組みを行ってきたかいもあり、徐々に改善していますが、貧困撲滅までの道のりはまだ遠く、今後さらなる取り組みの拡大や改善が期待されます。