大気汚染対策 世界各国、企業団体から個人の対策まで解説
光化学スモッグやPM2.5など、近年大気汚染が大きな問題となっています。
日本をはじめ世界中の国々が対策を行っていますが、現状はどうなっているのでしょうか。
今回は、大気汚染の現状や世界で行われている大気汚染対策、日本企業・団体が行っている大気汚染対策を紹介するとともに、個人ができる大気汚染対策も併せてご紹介します。
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1.大気汚染の現状
大気汚染は、地球環境だけでなく私たちの健康にも大きな影響を及ぼします。
世界各国で様々な取り組みがなされていますが、現状はどうなっているのでしょうか。まずは、大気汚染の原因と被害状況を見ていきましょう。
現在の大気汚染の大きな原因
2020年現在、大気汚染の主な原因は工場や自動車などが排出するガスや、石炭による火力発電の粉塵です。
これらのガスや粉塵には、炭化水素や窒素酸化物などが含まれているため、太陽の紫外線に当たると光化学スモッグに変化します。また、窒素酸化物は空気中で硝酸に変化することもあり、酸性雨の原因にもつながります。
大気汚染の被害状況
大気汚染は、私たちの生活にも大きな影響を及ぼします。具体的に見ていきましょう。
・健康被害
まず注目したいのが、健康に対する影響です。光化学スモッグやPM2.5などは、大気汚染による公害の代名詞と言っても過言ではありません。
例えばPM2.5は、大気中に存在する直径が2.5μm以下の物質を指し、大きさは1mmの1000分の1(人間の毛髪の太さの約1/30)という目には見えない存在です。とても小さな物質で、気管支炎やぜんそく、呼吸器系のがんや肺炎などの原因になると考えられています。
大気汚染の影響は、雨にも及びます。二酸化硫黄や窒素酸化物などが溶け込んだ大気中では酸性雨が降りやすく、降った後の土壌が酸性に傾くため、農作物や生態系に悪影響を及ぼします。
実際、WHO世界保健機関によると、大気汚染を原因とする死亡者は年間700万人にも上るとされています。
・経済被害
大気汚染による、経済被害も深刻です。
例えばインドでは、2018年には、PM2.5によって空が霞むほどの状況になり、飛行機の欠航や目的地変更が行われました。これは、冬に暖房器具として石炭ストーブを使用する家庭の多さや、野焼きなどの農作業によって排出される煙が原因とされています。
他にも、中国東北部でPM2.5の数値が1400を記録する事態が2015年に起こりました。これは、日本の基準で「外出禁止」の目安となる70のおよそ20倍の数値です。
視界が悪くなるほどの大気汚染により飛行機が欠航したほか、高速道路の閉鎖や学校の休校など、社会的・経済的に大きな影響を及ぼしました。
世界銀行の調査結果では、大気汚染による経済損失が5兆ドルになる可能性があるという数値が発表されており、大気汚染は私たちの経済活動にも大きな被害を及ぼしています。
2.世界で行われている大気汚染対策
では、大気汚染を解消するために、どのような対策が取られているのでしょうか。イギリス・中国・インド・日本のそれぞれの対策を紹介します。
イギリス
昔から「霧の街」と言われてきたロンドンですが、1952年12月5日に初めて霧ではないスモッグに覆われました。この現象は「世界最初の大気汚染」とも呼ばれており、発生からわずか1週間で15万人が入院し、1万2千人が亡くなったとされています。
黄色く、物が腐ったような臭いがするこのスモッグは、工場からの排ガスが霧と化学反応を起こしてできた硫酸塩によるものです。
それからというものイギリスでは、家庭での暖房器具の見直しや農作業の設備・技術支援などのほか、パトカーを電気自動車に変更するなどの積極的な大気汚染対策がとられています。
中国
深刻な大気汚染が問題となっていた中国でも、北京オリンピックを機に本格的な規制が行われました。
積極的な電気自動車の導入や共産党主動による厳しい規制により、2013年には大気中のPM2.5の数値が300を超えていた北京中心部も、2018年にはその数値が60に低下するなど劇的に改善しています。
インド
近年、深刻な大気汚染に悩まされているのがインドです。環境保護団体グリーンピースの統計によると二酸化硫黄排出量2位のロシアと3位の中国が過去10年にわたり排出量を削減している反面、1位のインドは逆に排出量が65%も増加しています。
都市別の大気汚染データでは、世界ワースト10都市のうち7都市をインドが占めるなど問題は深刻です。国家保健局は、「大気汚染測定値の限界値である999を超えてしまったため計測不可能」といったツイートもしています。
これを受けてWHOは「インドの大気汚染は喫煙と同レベルの危険性をはらんでいる」と発表しました。一説には1日タバコ50本分にも匹敵するほどとの意見もあるほどです。
インド政府は、通行できる車両をナンバー末尾の奇数・偶数によって分けるなどの交通規制を行っていますが、これらの対策は一時的なものに過ぎず効果は限定的であるため、抜本的な問題解決には至っていません。
日本
かつて深刻な公害被害を経験した日本では、世界トップクラスの大気汚染対策が行われています。
例えば、大気汚染物質の除去には、二酸化チタンを使った光触媒浄化技術などが使われています。この技術は、紫外線と反応すると大気中の窒素酸化物や硫黄酸化物を除去する二酸化チタンの性質を利用しています。
他にも、直径わずか10μmの繊維状物質で大気中の不純物を濾過する「高活性炭素繊維浄化技術」など、最先端の技術を使って高い効果を上げています。
また、自然廃棄されていた木材から精油を抽出し、その活性作用を利用して大気を浄化する「機能性樹木抽出液」も注目の技術です。機能性樹木抽出液は消臭効果や抗酸化効果が期待できるだけでなく、エコロジーの観点からも各地で導入が進められています。
3.日本企業・団体が行っている大気汚染対策
政府の目標に沿って企業や団体も独自の技術で大気汚染の軽減に努めています。ここでは、日本の企業や団体が行っている大気汚染対策を見ていきましょう。
日本自動車工業会
日本自動車工業会では、環境に対する取り組みとして、次の4つを柱とし積極的に大気汚染対策に取り組んでいます。
・燃料消費効率の良い自動車の開発
・効率的な利用
・交通流の改善
・燃料の多様化
また、電気自動車のような環境にやさしい車や、簡単に交換できるパーツの開発も盛んです。
電力会社
国内の電力会社でも様々な取り組みが実行されています。
例えば北海道電力では、石炭発電所から流出する石炭灰を利用した脱硫装置を開発するなど、大気汚染対策に力を入れています。
また、各種製造業における集積装置や建設業が行うアスベスト対策、製造業の集塵装置開発など、電力会社以外でも日本の企業・団体が取り組んでいる大気汚染対策は多岐にわたります。
特に、今まで自動車だけに頼っていた物流を船舶や列車などCO2排出量がより少ない方法に変える「モーダルシフト」は注目の大気汚染対策です。
4.家庭や個人ができる大気汚染対策
世界の国々や企業・団体が行ってきた大気汚染対策ですが、きれいな空気・住みよい環境を次の世代につないでいくためには、私たちも家庭や個人レベルでその枠組みに加わることが必要です。
移動の際、自家用車やタクシーではなく、電車やバスといった公共交通機関を利用したり、カーシェアリングを利用したりすることも大気汚染対策になります。
もちろん、こまめに電化製品のスイッチを切ったり、白熱灯や蛍光灯をLEDに変えたり、ペンキやフェルトペンなどはできるだけ環境汚染物質の少ない製品を選んだりすることも立派な大気汚染対策です。
ぜひ、できるところから無理のない範囲で、大気汚染対策に取り組んでみましょう。
5.まとめ
大気汚染の主な原因は、工場や自動車などが排出するガスや、石炭による火力発電の粉塵です。
しかし、多くの国が大気汚染対策に力を入れており、徐々に軽減していくことが期待されています。日本でも様々な対策が講じられており、世界的に見ても高い水準の技術が使われています。
国や企業だけではなく個人でできる大気汚染対策も少なくありません。
身近なところから、少しずつ取り組んでみてはいかがでしょうか。