世界の教育格差問題 2030年までの目標と対策~SDGs質の高い教育をみんなに~
日本では、子どもたちは当たり前のように小学校や中学校に通っていますが、世界に目を向けてみると、就学できない子どもたちも少なくありません。
この教育格差問題は、G20でも議題に挙がるほど深刻であり、「SDGs」という世界的な取り組みの中に、世界中のすべての子どもたちが初等教育を受けられるようにすることなどを含めた「質の高い教育をみんなに」という目標も掲げられています。
この記事では、SDGsが掲げる目標の詳細や現状をお伝えするとともに、各国が行っている取り組みについてもご紹介します。
目次 [非表示]
1.SDGs目標4「質の高い教育をみんなに」とは
SDGsとは、2001年に策定された「ミレニアム開発目標(MDGs)」の後継として2015年に国連サミットで採択されました。2016年から2030年までの「持続可能でさらにより良い世界を目指す国際目標」で、「leave no one behind(誰一人取り残さない)」を合言葉に17のゴールと169のターゲットが目標として設定されています。
17のゴールには、「貧困をなくそう」「飢餓をゼロに」「すべての人に健康と福祉を」などが挙げられます。その中で、4つ目に挙げられているのが、今回のテーマである「質の高い教育をみんなに」です。
これらのゴールを到達するためにさらに細かなターゲットが決められており、「質の高い教育をみんなに(すべての人々に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する)」の中には、次のようなものが含まれています。
4-1. 2030年までに、すべての子どもが男女の区別なく、適切かつ効果的な学習成果をもたらす、無償かつ公正で質の高い初等教育及び中等教育を修了できるようにする。
4-2. 2030年までに、すべての子どもが男女の区別なく、質の高い乳幼児の発達・ケア及び就学前教育にアクセスすることにより、初等教育を受ける準備が整うようにする。
4-5. 2030年までに、教育におけるジェンダー格差をなくし、障害者、先住民及び脆弱な立場にある子どもなど、脆弱層があらゆるレベルの教育や職業訓練に平等にアクセスできるようにする。
4-7. 2030年までに、持続可能な開発のための教育及び持続可能なライフスタイル、人権、男女の平等、平和及び非暴力的文化の推進、グローバル・シチズンシップ、文化多様性と文化の持続可能な開発への貢献の理解の教育を通して、すべての学習者が、持続可能な開発を促進するために必要な知識及び技能を習得できるようにする。
4-a. 子ども、障害及びジェンダーに配慮した教育施設を構築・改良し、すべての人々に安全で非暴力的、包摂的、効果的な学習環境を提供できるようにする。
4-c. 2030年までに、開発途上国、特に後発開発途上国及び小島嶼開発途上国における教員研修のための国際協力などを通じて、質の高い教員の数を大幅に増加させる。
引用:SUSTAINABLE DEVELOPMENT GOALS Vol2
SDGsでは、経済状況や性別といった事柄にとらわれず、誰もが平等に質の高い教育を受けることができる世界が目標とされているのです。
2.世界の教育格差の現状と影響
各国が真剣に教育について取り組んだ結果、2000年を境に教育環境格差は大きく変わり始めています。しかし、すべての問題が解決したわけではありません。
まずは、教育格差の現状について見ていきましょう。
教育格差の現状
世界全体では、就学率・識字率共に大きく向上しています。特にアフリカでは、1990年代の就学率は52%でしたが、2012年には78%と大きく改善し、識字率も76%から86%まで改善しています。
しかし、この数字はあくまで世界の平均値に過ぎません。国別・地域別に細かく見ていくと、決して楽観視できない問題が残されていることがわかります。
特に、後発開発途上国ではまだまだ十分な数字とは言えません。後発開発途上国とは、南スーダンや中央アフリカ共和国など、開発途上国の中でも、さらに発展途中の国のことを指し2020年現在47カ国が指定されています。
これら47カ国だけを見てみると識字率は63%に留まり、中でもニジェールは15%、チャドは22%、南スーダンは27%と低いことが分ります。
また、発展途上国であっても油断はできません。例えば、ベトナム全体の識字率は90%を超えていますが、ディエン・ビエン州だけを見てみれば70%と決して高いとは言えません。
もともと、ベトナムは男子と女子の識字率に差があり、国の平均が男子は95.9%、女子は91.6%なのに対し、ディエン・ビエン州では男子の識字率が76.5%、同女子は50.6%と国の平均よりも大幅に低いとされています。
この識字率の低さの要因は、貧困です。ディエン・ビエン州は、ベトナム国内で最も貧しい州のひとつと言われており、貧困が識字率しいては就学率に大きな影響を与えています。
教育格差の影響
就学率の低さは、社会にも大きな影響を及ぼします。発展途上国や後発開発途上国では、残念ながらすべての子どもが質の高い教育を受けられているとは言えません。
教育を受けられないことで、高いスキルを必要とする仕事に就けないことが、貧困や人材不足の温床となっています。
例えば、医師や看護師など医療従事者は高い専門的なスキルが必要ですが、教育の機会を与えられていない子にとっては、その職に就くことは極めて困難といえるでしょう。そのため、医師や看護師の不足は、発展途上国や後発発展途上国などで問題となっています。
また、そうした収入の高い職に就くことができず貧困にあえぐ人々が多くなれば、国の経済発展も遅れてしまいます。
他にも、性教育が行き届かないことによる爆発的な人口増加や無意識に行われる深刻な環境破壊など、教育格差による問題は非常に多いといえるでしょう。
3.世界各地の教育格差が生まれる原因
教育格差はとても大きな問題ですが、なぜ生まれるのでしょうか。
ここからは、教育格差の原因についてご紹介していきます。
紛争や戦争
戦争や紛争、非常事態ともなれば教育を行う余裕はなくなり、子どもが戦争の道具として戦場に駆り出されることは珍しくありません。
2020年現在も、アフリカでは多くの内乱が起きています。コンゴ民主共和国、中央アフリカ、マリ、ナイジェリア、スーダンと南アフリカをのぞく、ほぼすべての地域で断続的に戦争状態が続いています。
アフリカで起きている内乱の原因は、後発開発途上国の政策の失敗や指導者の汚職、それらに反対するイスラム急進主義の攻撃が主なものだといわれ、貧困が戦争を呼び、戦争がさらなる貧困を招くという悪循環に陥っている状況です。
また、武装地帯から隣国に脱出したとしても安心はできません。難民として差別されたり、言語の違いから満足な教育が受けられなかったりすることもあります。
戦争や紛争が飛躍的に文明を発達させることもありますが、それは一部の人間や例外であり、そうしたことがプラスに働くことはありません。
貧困
アフリカの後発開発途上国は、ほとんどがサハラ砂漠以南に集中しています。こういった地域では、たとえ無償で教育が受けられる制度が整ったとしても、大事な働き手である子どもを学校に通わせる家は決して多くありません。
しかし、「学費が無料であっても、学校に通う時間があったら労働させる・する」という考え方が、さらなる貧困を招いてしまっています。この考え方は発展途上国に限ったものではなく、格差が社会問題となっている先進国でも同様のことが起きています。
日本でも、貧困対策は最重要課題のひとつです。特に母子家庭の貧困が大きな問題となっており、「ひとり親世帯の貧困率」を見てみると、デンマークが6.8%なのに対し、日本は58.7%と極めて高いことが分かります。
親による教育否定
多くの後発開発途上国や一部の地域では、保護者が教育そのものを理解していないことがあり、それが問題だと指摘する専門家もいます。
両親が教育を受けていないことから、教育の必要性や重要性がわからず、教育を受けさせて子どもの未来に投資するという考え方が、親の中に無いこともあります。
学校施設と教員の不足
教育を受けさせる施設の建築や教育に携わる人材の確保、インフラの完備といったことが行われず、教育環境そのものが構築できないこともあります。
これは、貧困や教育など様々な要因が関係しています。
4.教育格差をなくすために必要なこと
最後に、こうした教育問題を解決するために、有効な手段についてご紹介していきます。
水・衛生環境の改善
後発開発途上国の貧しい人々のほとんどは、農業などの一次産業に従事しています。そういった家庭にとって、子どもは重要な働き手であり、学校に通う時間的な余裕はありません。
そのため、効率的に作業ができる環境を整えることが重要になってきます。
例えば、井戸やポンプを設置すれば川と家を往復して水を運ぶ手間がなくなり、集落ごとに農耕機械を導入すれば、今までよりも開墾が容易になり、教育を受ける機会を作るきっかけになります。
学費の廃止・給食の配布
子どもを働かせている家庭では、「学校に行く時間があれば、子どもにも働いてもらわなければ生きていけない」という状況も珍しくありません。
そのため、無償で学校へ通えて給食が支給される制度を作ることで、子どもの食費が浮くというメリットが生まれ、学校に通う機会を増やすことできます。
5.まとめ
SDGsの4つめの目標「質の高い教育をみんなに」を実現するために、今現在世界中でさまざまな取り組みが行われています。それが功を奏して、世界全体の未就学児童数・識字率ともに大きく改善傾向にありますが、十分とは言えません。
世界ではいまだに7,000万人以上の成人が非識字(文字が読み書きできない)であり、その内の2/3が女性であるという問題も残されています。
SDGsの目標を達成するためには、先進国の援助も含め、さらなる努力が必要です。
参考サイト
国際協力NGOワールド・ビジョン・ジャパン
https://www.worldvision.jp/children/education_03.html