生産効率UP・省エネを実現する工場のIoT化とは?
ビジネス雑誌やニュースなどで目にする「工場のIoT化」や「スマート工場」という言葉ですが、具体的にどういったものなのか、いまいちイメージしづらい部分もあります。
そこで今回は、工場のIoT化によるメリットのほか、IoT化する際の課題や導入を成功させるコツを解説します。
目次 [非表示]
1.工場の「IoT」とは
工場のIoT化とは、あらゆる機械が持つデータをインターネットを通して集計・分析し可視化することであり、その情報を元に様々な業務改善が期待できます。例えば、機械の稼働状況をAIで最適化させることもできます。
そもそもIoTとは「Internet of Things」の頭文字を取ったもので、「モノのインターネット」などと呼ばれます。あらゆる物をインターネットで接続し、データを共有することでより効率的にさまざまな作業を行っている仕組みのことです。
IoTは工場など製造業に限ったものではなく、一般社会においても利用可能なシステムです。例えば、スペインのバルセロナは市が率先して地域のIoT化を進めており、市内の公園の散水装置や信号システムなどがIoTで管理されています。
市内の公園にある散水装置をIoT化し、土の乾き具合に合わせて散水するようにしたことで25%もの水道代の節約につながったほか、信号をIoT化したことで交通事故が減ったという具体的な成果が出始めているのは注目すべきことです。
ただ、ここまでIoT化を推し進めていくには、相当なコストや労力、時間を有してしまうため、工場のIoT化でもIT/IoTツールの導入からスタートする企業は多くあります。
例えば、見積書の作成をデータ化したり、社員の勤務状況をスマホやタブレットで確認するといった業務改善や、機械の稼働状況をセンサなどでデータ化し、稼働や停止をスマホ・PCで実施できるようにする管理工数の削減などが、IoT化の事例として挙げられています。
こうした一部業務のIoT化をきっかけに、工場全体のIoT化を進めるとどのようなメリットや課題が出てくるのでしょうか。次の章から詳しく見ていきましょう。
2.工場をIoT化するメリット
それでは、工場にIoTを導入する具体的なメリットを見ていきましょう。
エネルギー使用量の効率化
IoT化をするメリットのひとつは、機械のデータを収集することで、個別の消費電力などが正確に把握できるようになることです。消費電力以外にも水やガス、蒸気といった生産のために必要なエネルギー量が具体的に把握できるようになります。
生産のために必要なエネルギー量が把握できるようになると、事前に使用量の予測が可能になるので、予実管理も容易になります。
設備異常の早期発見
複数の機械がひとつの工程の中で作業を行うオートマチック生産では、ひとつの機械に異常が発生した場合でも生産ライン全体が止まってしまいます。再稼働には、異常が発生した機械を管理者が目視で確認し、故障箇所を限定・修理交換する必要がありますが、その間は作業を止めざるをえません。
しかしこの方法では、管理者が現場にいないなど、ちょっとしたトラブルで停止期間が長くなるという欠点があります。
すべての機械をIoT化し、インターネット経由で情報を収集・集積できる状態にしておくと、トラブルの状況や必要な人員・部品などの特定が早まり、被害を抑えることが可能になります。
環境条件や作業者などによる変動をデータ化
IoT化を通じて収集するデータは、機械内部の状況だけではありません。機械周辺の湿度や温度といった環境データや、誰が機械を操作したかといったマンパワーデータ、さらに曜日や時間帯といった時系列毎のデータなどさまざまなものを集約できます、
これらの情報を総合的に判断して、効率の良い組み合わせや、作業効率が下がる要因を特定することも可能になるのです。
3.工場のIoT化の課題
一見、メリットばかりに見える工場のIoT化ですが、導入する際の課題にはどういったものがあるのでしょうか。
ここでは、IoT化の問題について見ていきましょう。
導入コスト
IoT化には、すべての機器をインターネットで接続する必要があります。当然、古い機械などはネット接続に対応していないこともあるため、機械の交換や改造が必要になるケースも出てきます。
その場合、設備費はもちろん対応する社員の準備など、様々なコストが発生してしまいます。これはあくまで一例ですが、工場のIoT化には多大なコストが必要になるケースも少なくありません。
メンテナンスできる人材の不足
IoTによって集約されたデータは、非常に有用で価値あるものですが、データの見方や活用法が分からなければ、宝の持ち腐れとなってしまいます。
また、常に正確なデータを収集するためには日々のメンテナンスが重要であり、活用できる人材を新たに確保したり、現状の社員を新たに教育するなどが必要となります。
セキュリティ
IoT化で最も深刻な問題が、サイバーテロの標的になるといったセキュリティリスクです。
日本のサイバーテロに対するセキュリティのレベルは世界的に決して高くなく、最低レベルといっても過言ではありません。実際、少し前までは一部上場企業や政府の公式サイトであっても、海外のアマチュアハッカーに容易に改ざんされるレベルでした。
工場をIoT化し、すべての機械をインターネットで接続するということは、インターネットを使えば世界中の誰もが自社の工場のデータを読み取り、機械を操作することが可能になるということでもあります。
自社の貴重なデータの流出を防ぐためには、堅牢なセキュリティシスムを構築する必要があることは明白です。ハッキング手段は日々進化しているので、それに対応できる最新のセキュリティシステムに常に更新し続ける必要が生じます。
災害時の電力供給対策
IoT化には、電力が欠かせません。万が一、災害や緊急事態が起こって送電がストップすればIoTシステムもダウンしてしまいます。機械そのものが停電のため動かなくなってしまえばそれまでですが、非常用の電源などで対処する場合は機械だけでなくシステムにも電力を供給する必要があります。
工場をIoT化する際は、太陽光発電や地熱発電、バイオマス発電といった自家発電設備を整えておくことで、緊急時でもIoTシステムがダウンしてしまうリスクが減らせます。
また、自家発電設備を整えることは、長期的にみるとコスト削減にもつながるため、IoT化する際は自家発電設備の導入も検討してみましょう。
4.IoT導入にはサポートを利用する
工場にIoTを導入する際は、コストをはじめとした様々なリスクが伴いますが、世界的にIoT導入が盛んになっている現状を見ても、導入は避けられないものになりつつあります。
そこで、IoTを導入する際は、政府の支援を受けることをおすすめします。
ドイツやアメリカ、中国では、官民一体となってIoT事業が行われています。これに危機感を覚えた経済産業省や総務省は、民間企業のIoT導入に対してさまざまな支援策を打ち出しているのです。
補助金や金利負担といった支援を適切に利用することで、IoT導入に際してのコストが軽減でき、導入することで競争力を身につける余裕も生まれます。
IoTを導入すると、機械のデータだけでなく作業員の能力もデータとして収集されるため、現場担当者に対する適切なケアと十分な説明も必要です。IoTを導入する際は、導入の必要性やメリットをしっかりと共有するようにしましょう。
5.まとめ
スマート工場や工場のIoT化は、近年よく耳にするようになりましたが、世界的にも導入がどんどん進んでおり、この流れは加速していくと考えられます。
コストやセキュリティ、作業員のモチベーションなど、導入にあたって課題となるものも多いですが、それ以上のメリットが見込めます。