SDGsで減少目標が設定された非感染症疾患(NCD)とは
非感染症疾患(NCD)は、がんや糖尿病などの「感染症ではない」疾患を表した言葉です。
私たちの身近にあるNCDですが、感染症ではないため、生活習慣を見直すことで回避することができるものもあります。
持続可能な世界の実現を目的に採択された国際目標であるSDGsの中でも、このNCDで亡くなる方を減らす目標が定められています。
今回は、NCDについて詳しく知り、病気を防ぐためには何ができるのかを確認していきましょう。
目次 [非表示]
1.若年死を救う世界指標「SDGsすべての人に健康と福祉を」とは
SDGsのゴール3では“あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する”という目標が掲げられています。
このゴール3には13のターゲット(具体的な達成課題)が設定され、その中に非感染症疾患(NCD)の原因となる薬物、アルコールの乱用防止・治療と、たばこの規制を強化することも盛り込まれています。
また、NCDのリスクが高い若年層(30歳~69歳)についても触れられており、2030年までにNCDによる若年死亡率を3分の1まで減少させること、精神保健や福祉を促進することも組み込まれました。
2.非感染症疾患(NCD)の現状
SDGsにも取り上げられる非感染症疾患(NCD)とは具体的にどのような病気を指し、どれくらいの人が苦しんでいるのでしょうか。
まずは、その現状について確認していきましょう。
死因の7割以上を占める非感染症疾患(NCD)
NCDとは、世界保健機関(WHO)で次のように定義されています。
“不健康な食事や運動不足、喫煙、過度の飲酒、大気汚染などにより引き起こされる、がん・糖尿病・循環器疾患・呼吸器疾患・メンタルヘルスをはじめとする慢性疾患をまとめて総称したもの”
世界の死亡原因の1位は、これらNCDによるものと言われています。
WHOの調査によると、全世界の年間の死亡者5,800万人のうち4,100万人、実に71%がNCDにより死亡していることがわかっています。
非感染症疾患(NCD)の内訳
世界の死亡原因の71%を占めるNCDですが、その中でも、死亡者が最も多いのは心筋梗塞や狭心症などの心疾患です。
心疾患では、年間1,790万人が死亡しており、これはNCDによる死亡の大部分である43%を占めます。
その他に死因となっている病気として、がんでの死亡者が900万人、呼吸器疾患390万人、糖尿病160万人と続きます。
非感染症疾患(NCD)のリスクが高い年齢と地域
心疾患や糖尿病など完治が難しいNCDには、リスクが高い年齢と地域に傾向があることがわかっています。
年齢からみると、リスクが最も高いのは、30歳から69歳の若い世代と言われ、その世代で死亡する「早すぎる」死亡は年間1,500万人にのぼります。そのうち、80%の人がNCDの4大疾患(心疾患、がん、呼吸器疾患、糖尿病)で亡くなっているのです。
また、リスクが高い地域は、低・中所得国であることがわかりました。
低・中所得国ではNCDにより年間800万人が亡くなっており、そのうち早すぎる死亡に限ってみると、85%が低・中所得国で発生しているのです。
3.非感染症疾患(NCD)の原因と死亡理由
主に若い世代、低・中所得国で広がる非感染症疾患(NCD)ですが、世界保健機関(WHO)ではその原因として、喫煙、過度の飲酒、運動不足や不健康な食事、大気汚染などを挙げています。
ここではそれぞれの原因が死亡につながる理由を見ていきましょう。
タバコ、過度なアルコール、薬物乱用
みなさんもご存知の通り、タバコは体に悪影響を与えます。タバコは口腔がん、肺がんなどのがんはもちろん、循環器疾患や呼吸器疾患、糖尿病も引き起こすことが分かっています。
このように、タバコは主に体を蝕みますが、心身ともに影響を及ぼすものとして、過度なアルコール摂取と薬物乱用があります。
アルコールと薬物乱用は、うつ病を引き起こしたり、脳の神経に異常をきたすこともあります。また、うつ病などの精神疾患により自殺をするケースも少なくありません。
運動不足、不健康な食事
不健康な生活習慣もNCDを引き起こす原因として挙げられています。
厚生労働省によると、日本では年間5万人が運動不足で死亡しています。その内、実に8割を超える4万人以上の方が循環器疾患で死亡しており、がん・糖尿病がこれに次ぐことがわかっています。
同じ生活習慣のうち、不健康な食事は心疾患、がん、糖尿病、腎臓病に関連しており、ワシントン大学などの研究によると、食事が与える影響は喫煙よりも深刻であることが示されています。
大気汚染
原因の最後として考えられているのは、大気汚染です。汚染された大気に含まれる有害物質が刺激を与え、肺疾患を引き起こします。具体的には、気管支喘息や肺がんなどが挙げられます。
大気汚染に関連する肺疾患は心臓や血管の病気にかかるリスクを高めることも確認されており、別の病気にかかり死亡することも珍しくありません。
4.2030年までに若年死亡率を減少させる取り組み
SDGsで非感染症疾患(NCD)への認識が改められたことから、世界では若年死亡率を減らす取り組みが活発化してきました。
ここからは、若年死亡率を減らす取り組みをいくつかご紹介したいと思います。
取り組み①. 非感染症疾患(NCD)を防止する世界保健機関(WHO)の行動計画
世界保健機関(WHO)では、独自に「NCDの予防と管理に関する国際戦略」と呼ばれる2013~2020年の行動計画を立てています。
この行動計画では「25 by 25」目標が設定され、2025年までにNCDによる若年死亡を25%削減するための6つの政策が進められています。
取り組み②.若年層の薬物乱用、有害なアルコール摂取の防止
薬物乱用や過度なアルコール摂取は回避できる原因であるとして、世界的に未然防止活動が行われています。
薬物乱用防止のための取り組みとして、国連では53カ国から構成される麻薬委員会をおき、薬物乱用問題の分析や乱用防止に取り組んでいます。
中でも日本では2018年に厚生労働省で「第五次薬物乱用防止五か年戦略」がたてられ、学校における薬物乱用防止教室を開くことで青少年の薬物に対する意識を変える試みが行われています。
また、アルコール対策ではWHOが「アルコールの有害な使用を低減するための世界戦略」をたてています。
この戦略では、アルコール依存症の人が使える保健医療サービスを提供すること、小売店でのアルコール販売を部分的に禁止すること、若者のアルコール飲酒を抑える価格設定にすることなどが提案されています。
取り組み③.世界的なタバコ規制
WHOにより「たばこ規制枠組条約」が策定されてから、世界では55カ国が屋内全面禁煙とする法律を成立させました。
これは喫煙者だけでなく、子どもや非喫煙者を受動喫煙から守るために制定されたもので、国や州によっては自家用車の中でも子どもが乗っていると喫煙できない、と規定しているところもあります。
日本は部分禁煙が進んでいますが、世界的な禁煙化の流れを考えると日本の動きは遅れていると言わざるをえません。
取り組み④.メンタルケアによる自殺防止
最後に、日本で取り組まれているメンタルケアについても見ていきましょう。
日本はNCDに自殺を含めており、若者の死因として自殺は常に上位を占め、若者の自殺をなくすことが急がれています。
そこで厚生労働省は、SNSを活用し相談事業を始めました。2018年10月から半年間で相談件数は延べ13,177件、1日平均37件の相談が寄せられています。
また、同じく厚生労働省は「自殺総合対策大綱」へ新たに「適切な精神科医療を受けられるようにする」という項目を増やし、うつ病やアルコール依存症などの患者に対して適切な医療を提供できるよう体制を整えています。
5.まとめ
死因の70%以上を占める非感染症疾患(NCD)ですが、SDGsでの指標をもとに世界では死亡者を減らすための取り組みが行われています。
しかし、そのような取り組みだけではなく、禁煙する、健康的な食事を取るなど一人一人の意識を変えることで防げる病気もあるかもしれません。
今後、NCDでの死亡者が1人でも少なくなることが望まれます。