世界の妊産婦・子どもを取りまく環境と家族計画~SDGsすべての人を健康に~
「出産は命がけ」と言われる通り、世界では出産を通して死亡する母親や子どもは少なくありません。この妊産婦・子どもの死亡率は、医療環境や衛生環境などで大きく変わることがわかっています。
そのため、世界では出産による死亡をなくそうと様々な取り組みが行われています。
今回は、SDGsでも取り上げられた妊産婦と子どもの健康について、母子を取りまく環境と、母子の健康問題解決のための取り組みをご紹介します。
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1.SDGs「すべての人に健康と福祉を」とは
SDGsとは、2015年に国連サミットで採択された「持続可能でより良い世界を目指す国際目標」です。2030年までに地球上のあらゆる問題を解決するために、17のゴールと、それを達成するために具体的に解決しなければならない169の課題がまとめられています。
SDGsの3つ目のゴール、「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する」では、下記のように国際的に妊産婦・子どもの死亡率を減らすことも掲げられています。
3-1. 2030 年までに、世界の妊産婦の死亡率を出生 10 万人当たり 70 人未満に削減する。
3-2. すべての国が新生児死亡率を少なくとも出生 1,000 件中 12 件以下まで減らし、5 歳以下死亡率を少なくとも出生 1,000 件中 25 件以下まで減らすことを目指し、2030 年までに、新生児及び 5 歳未満児の予防可能な死亡を根絶する。
SDGs総研
母親と子どもの出産に関する死亡は、環境さえ整備すれば防げるものが少なくありません。母子の死亡につながってしまう現状と理由を、次章から詳しく見ていきましょう。
2.世界の出産を取りまく現状
まずは、世界の妊産婦や子どもを取りまく現状を確認していきましょう。
妊産婦死亡率
世界保健機関(WHO)の発表によると、世界の妊産婦死亡数は年間30万3,000人であり、妊産婦死亡率は0.216%(妊産婦10万人に対して216人)であることがわかりました。これは、毎日830人が出産により死亡している計算になります。
最も死亡率が高いシエラレオネは1.36%、次いで中央アフリカ共和国0.88%、チャド0.85%、ナイジェリア0.81%と後に続きます。
開発途上国における妊娠・出産が、いかに危険か伺えます。
特に多い5歳未満児の死亡
年間540万人が5歳未満で亡くなっており、そのうち生後1か月以内の新生児が半分を占めています。死因の多くは予防や治療が可能な出産時の合併症や感染症です。
また、サハラ以南のアフリカの新生児死亡率は、高所得国の9倍にものぼり、貧富の差が死亡率に大きな影響を与えていることがわかります。
このように、妊産婦や小さな子供の死亡の多くは開発途上国で起きています。
3、妊産婦・子どもの主な死亡理由
開発途上国で妊産婦や子どもの死亡率が高い理由について、次の4つのことが挙げられます。
・若すぎる出産
・家族計画の不足
・医療環境と保健サービスの未発達
・感染症対策の遅れ
理由①.若すぎる出産
妊産婦・子どもの死亡率が高い開発途上国では、出産リスクが高い青年期(10~19歳)の出生が多いことが国連広報センターから報告されています。
開発途上国では年間730万人の18歳未満の少女が出産しており、そのうち15歳未満での出産は200万人、そして年間7万人の少女が妊娠と出産の合併症によって亡くなっています。
女性の身分の低さ、児童婚が合法化されている、極度の貧困による圧力、などが若すぎる出産と死亡をもたらしています。
理由②.家族計画の不足
家族計画が広がらないことが、母子の健康が損なわれる一因になっています。
家族計画とは「カップルが出産のタイミングや子どもの数を考え、自発的に妊娠・出産を計画すること」を意味し、そのために必要なリプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)を守るサービスや、避妊・受胎促進に関する性教育も含まれます。
特に、貧困地域では家族計画に関する保健医療サービス(人工中絶や妊婦健診など)が不足しており、身分の低い女性が教育や医療ケアを受けられないケースが多く、死亡率が高くなる原因となっています。
理由③.医療環境と保健サービスの未発達
医療環境や保健サービスが不十分な貧困地域では、必要な処置を受けられずに死亡する母子が多くいます。
母子を守るためには、妊娠前・中・後のケアが重要だと言われています。
例えば、妊娠前に風疹のワクチンを接種し、妊娠中には定期的に検診を受け、出産には訓練を受けた助産師が立ち会い、出産後には母子の健康状態を都度確認することが、母子の命を救うとされています。
しかし、開発途上国では近くに医療施設がなく、医者や看護師が少ない地域が多く存在します。
そのような地域では、自宅出産が数多く行われ、知識のない介助者が多量出血などに対応できず、母子の命が失われることは珍しくありません。
理由④.感染症対策の遅れ
HIVやマラリアなどの感染症にかかっている女性が出産すると、敗血症などの合併症リスクが高いと言われています。
また、感染症にかかっている母親の子どもは、低体重で生まれる可能性が高く、健康に生まれても重度の感染症(敗血症や破傷風など)にかかり死亡する恐れがあります。ユニセフによると感染症による死亡は、新生児死亡の36%を占めています。
このような事態を防ぐためには、衛生的な環境と、妊婦や新生児への予防ワクチン接種が重要です。
4、妊産婦・子どもを救う取り組み
最後に、妊産婦・子どもの命を救うために世界で行われている取り組みを、セーブ・ザ・チルドレンとJICAを例にご紹介します。
セーブ・ザ・チルドレンは、ミャンマーの妊婦健診環境を整えるために、農村で活動する補助助産師を育成する研修を提供しています。これにより、妊婦健診を受けられる妊産婦が徐々に増えています。
また、同じく母子を救うための活動として、JICAによる母子手帳プロジェクトがあります。
日本で作られた母子手帳は、母子の健康に大きく貢献しています。JICAではこの母子手帳制度をインドネシアに普及させ、今ではインドネシアの妊産婦の6~8割が使用するまでになりました。
5、まとめ
世界で年間30万件を超える妊産婦の死亡と、500万人以上の5歳児未満の死亡を受け、SDGsでは母子の健康を守る目標が立てられました。
しかし、問題の中心地ともいえる開発途上国では貧困や医療不足、女性の地位の低さなどが影響し、解決は簡単なことではありません。
しかし、SDGsをはじめとした様々な活動が世界中で行われ、改善している地域もあります。2030年まで時間が迫る中、さらなる取り組みの増加と状況の改善が願われます。