海洋汚染と生態系から考えるSDGs~目標14.海の豊かさを守ろう~
昨今、国際的に深刻な問題となっているのが、プラスチックなどによる海洋汚染です。
国際目標であるSDGsでも海洋汚染の防止が明記されていますが、近年プラスチック削減の動きが世界中で活発化しています。
ただ、海洋汚染が私たちの生活にどのような影響があるのか、詳しく知っている方は少ないのではないでしょうか。
今回は、SDGsでも取り上げられた海洋汚染の原因と私たちに及ぼす影響、世界各地で行われている解決への取り組みなどについて見ていきます。
1.「SDGs目標14.海の豊かさを守ろう」とは?
海洋汚染はさまざまな問題を引き起こす一因となるため、解決に向けて世界中で多様な取り組みが行われていますが、その中のひとつにSDGsがあります。
SDGsとは、持続可能な世界を目指すために国連が採択した世界共通の取り決めであり、2030年までに地球上のあらゆる課題の解決を図るため、17の目標が定められています。14番目の目標に「海の豊かさを守ろう」があり、海洋保護のために10個のターゲットを設定しています。
ターゲットには期限を設けた具体的な対策が盛り込まれていますが、そのうち海洋汚染に関する3つのターゲットを簡単にまとめると次のようになります。
・2025年までにあらゆる海洋汚染を防止すること
・2020年までに海洋生物の持続的な管理と保護を行うこと
・2020年までに各国が入手可能な最適な科学的情報を元に沿岸・海洋エリアの10%を保全すること
今後も海洋資源を保全・利用していくために、各国が一丸となってこの目標の達成に取り組む必要があるのです。
2.海洋汚染の原因
世界中で問題視されている海洋汚染ですが、海洋汚染の主な原因は、窒素やリンなどによってバクテリアが増殖する「富栄養化」や、カドミウムや水銀、鉛などの有害物質による「有機汚濁」があります。
汚染物質は、不法投棄されたゴミや工場・生活排水、船舶から流出した重油など、私たちの生活や経済活動から発生しており、近年特に危惧されている問題がプラスチックゴミです。
プラスチックを主原料とした海洋ゴミは、海流や潮流にのってはるか遠くの国々に影響を与えることもあり、国際的に深刻な問題のひとつとなっています。
3.プラスチックゴミが与える影響
増え続けるプラスチックゴミは、生態系や私たちの健康にも大きな影響を与えます。ここでは、各影響について詳しく見ていきましょう。
生態系への影響
プラスチックゴミが海の生態系に及ぼす影響は小さくありません。
ビニール袋をクラゲと間違えて食べてしまうウミガメをはじめ、クジラやイルカといった哺乳類、アジサシやペリカンなどの鳥類、そして、多くの魚類の胃袋からプラスチックを原料としたゴミが発見されています。
イギリスのプリマス大学の海洋学者であるGall博士とThompson教授が2015年に発表した論文によると、海洋ごみにより約700種の生物が死傷していますが、その92%はプラスチックゴミによるものです。
また、5mm以下になったマイクロプラスチックは、プランクトンや小魚が食べて体内に残留し、さらにそれを捕食する魚へと蓄積が繰り返されることで、食物連鎖の頂点にいくほど濃度が高くなると言われ、最終的に私たち人間も口にすることになります。
粒子となったマイクロプラスチックが生体にどのような影響を与えるのか、具体的には明らかになっていませんが、有害物質が多く含まれていることが判明しており、生物の身体や繁殖への影響が心配されています。
海洋への影響
プラスチックゴミは分解されづらく、自然分解にかかる時間は、ペットボトルで400年、釣り糸で600年と言われています。
WWF(世界自然保護基金)によると2015年時点で海洋に存在するプラスチックゴミの総量は1億5千万トンに上ると推定されており、海洋に今後何百年も漂うプラスチックゴミは、多くの海洋生物を苦しめ、水質も汚染し続けます。
さらに毎年800万トンのプラスチックゴミが新たに流入しており、この50年の間に20倍以上に増大しました。世界国際フォーラムは、2050年には、海洋のプラスチックが海に生息する魚の数を上回るという衝撃的な予測を発表しています。
4.海洋保護区の設定も有効
海洋生物の多様性を保護する動きとして海洋保護区の設置があり、これはSDGsのターゲットにも挙げられています。「海洋保護区」とは、海洋生物の生態系を保全するために、資源開発や漁業、観光などを規制した海域を指します。
1980年頃より、海洋保護区を設け海洋生物多様性の保護や海産資源の管理を行おうとする動きが世界で活発化しており、生物多様性条約事務局によると2017年のデータでは、世界の海洋保護区が国家管轄権内水域全体の14.4%に達したことがわかりました。
国別にみてみると、パラオやチリ、イギリスなどでは大規模な海洋保護区の設定が進んでおり、2020年には23%を超えると予想されています。その反面、日本の海洋保護区は領海・排他的経済水域全体の8.3%となっており、SDGs目標の10%に向けて新たな海洋保護区の設定を進めています。
これらの保護区では、水質汚染対策はもちろんのこと、乱獲防止やゴミの不法投棄の監視などさまざまな取り組みが行われていますが、海洋保護区の世界的な定義といったものは存在せず、国ごとに管理の方法も目的も違うため、世界的なルールを設けることが現在の課題となっています。
たとえば、海産物の消費が多い国では漁獲する海産物の保護を優先しますが、観光資源が重要な国では景観や多様な生態系の維持が優先されるのです。
生態系を守るという統一された目的のもと、世界の足並みを揃えることが求められています。
5.まとめ
利便性が高く、安価で大量生産できるプラスチック製品は、開発途上国の経済発展とともに増加を続けており、プラスチックゴミとして海洋に流出して、多くの海洋生物を苦しめています。
また、海洋生物の体内に蓄積された有害なプラスチックゴミは、魚介類を食べる人間にも影響を及ぼします。
海洋汚染対策や海の生態系の保全、人間の健康を守るために、各国が海洋保護区の設定を進め、SDGsの目標をもとにプラスチックゴミの規制や代替製品の導入などを積極的に行っていく必要があるのです。