世界の暴力撲滅と平和への取り組み SDGs~目標16.平和と公正をすべての人に~
戦争はもちろん、殺人などの犯罪や家庭内暴力、人身取引といったさまざまな暴力が多くの人を苦しめています。
暴力撲滅を目指した世界的なゴールを設定しているのが、SDGsの目標16「平和と公正をすべての人に」です。
この記事では、戦争や暴力に直面する人々の現状と世界平和に向けた取り組みについてご紹介します。
目次 [非表示]
1.SDGs目標16「平和と公正をすべての人に」とは
SDGsは「誰ひとりとして残さない(leave no one behind)」より良い世界にするために、2030年までに達成すべき17の目標を掲げています。
17個の目標のうち、目標16「平和と公正をすべての人に」では、武力紛争や暴力に直面し、脆弱な制度により適切な支援を受けられない国や人を救うためのターゲットを11個設定しています。
暴力や組織犯罪、汚職、テロといった、平和な社会形成を阻害するあらゆる事柄の根絶を目指していますが、中でも暴力撲滅に関するターゲットには、次の3つが該当します。
・16-1:あらゆる場所において、すべての形態の暴力及び暴力に関連する死亡率を大幅に減少させる。
・16-2:子どもに対する虐待、搾取、取引及びあらゆる形態の暴力及び拷問を撲滅する。
・16-a:特に開発途上国において、暴力の防止とテロリズム・犯罪の撲滅に関するあらゆるレベルでの能力構築のため、国際協力などを通じて関連国家機関を強化する。
暴力による被害を受け、支援を求める人々の現状を確認していきましょう。
2.戦争や犯罪による被害
第二次世界大戦が集結した翌年である1946年を境に戦争による犠牲者の数は減少傾向にあります。一方で、紛争や暴力事件による犠牲者の数は増加傾向にあることも事実です。
戦争や犯罪に見舞われる人々の実態を解説します。
暴力に関する死亡率
国連が発表した2017年の統計によると、殺人を始めとした暴力事件によって命を奪われた人の数は全世界で50万人近くになるとされています。武力紛争による死者は8万9,000人、テロによる死者は1万9,000人と殺人による死者数とのギャップが大きく、いかに暴力による犠牲が大きいかがわかります。
この暴力に関連する犠牲者の割合は先進地域と開発途上地域で大きな格差があります。
故意の暴力(殺人など)による犠牲者の数は先進国の平均で10万人あたり4.7人程度と言われていますが、開発途上国では2倍程度にまで増加します。中でもラテンアメリカ地域は10万人あたり22.5人と、先進国に比べ4倍以上にまで犠牲者の数が増加しています。
ラテンアメリカで殺人事件が蔓延する原因として、失業率の高さや政治の不安定性、ジェンダー格差、麻薬の蔓延といった事由が考えられています。
紛争下で暮らす子どもの現状
セーブ・ザ・チルドレンがまとめた報告書によると、現在、およそ4億1,500万人の子どもが紛争地域で生活しているとされています。その中でも、年間死傷者数が1,000人を超える「高強度紛争地域」で暮らす子どもの数は1億4,900万人に達し、そのほとんどがアフリカや中東に集中しています。
2018年の1年間だけでも、紛争により最低1万2,125人の子どもが犠牲者となっていますが、特に男子は子ども兵士として重宝され、誘拐や戦闘の被害を受ける確率が高いことが特徴的です。
紛争による被害は、子どもへの教育にも及んでいます。2017年にユニセフが発表した報告書では、紛争地域で生活する2,700万人の子どもたちが学校に通っていないとしています。紛争は、子どもから教育を受ける権利をも奪うのです。
3.虐待・人身売買の被害を受ける子どもたち
子どもが受ける被害は、戦争によるものだけではありません。力の無い子どもたちは、常に暴力の危険にさらされ、多くの国や地域で子どもたちの人権が侵害されています。
虐待と人身売買の2つの視点から、子どもの被害状況を見ていきましょう。
子どもの2人に1人は虐待を受けている
2018年に世界保健機関(WHO)は、2~17歳の子どものうち、2人に1人が暴力や虐待の犠牲になっていると発表しました。数にして、10億人に相当します。
虐待に限って見てみると、子どもの5人に1人は身体的虐待を、3人に1人は精神的虐待を受けていると言われていますが、これには体罰が背景にあります。
ユニセフの調べでは、大人の約3割が子どもの教育に体罰は必要だと考えているとしています。その割合は途上地域で高まり、アフリカ南部に位置するエスワティニ王国では、82%の大人が体罰は必要だと考えているとされています。
人身売買の犠牲者となる子ども
性的搾取や強制労働、強制結婚、ポルノ制作といった目的のために、人身売買の犠牲となる子どもが後を絶ちません。
ワールド・ビジョン・ジャパンのデータでは、2016年に世界でおよそ4,030万人が人身売買の犠牲となっており、そのうち25~30%の被害者は子どもであるとされています。しかし、人身取引は秘密裏に行われるため、報告されている数は氷山の一角に過ぎません。
男子の場合は武装グループなどが買い入れ、兵士として育てて前線に送り込むといったケースも見られ、新たな暴力を生む火種にもなっています。
4.世界の平和を守る取り組み
世界中で問題視されている紛争や犯罪、虐待といった暴力を減らし世界平和を構築するために、さまざまな機関が安全を守る取り組みを行っています。
国際平和への取り組み:国連平和維持活動(PKO)
PKOは、紛争沈静化・再発防止を目的に国連が行う平和活動のひとつです。紛争地域の平和を目指し、今までで総計68件の平和維持活動が設立されています。
国連自体は軍隊を所持していないため、活動費は加盟国が負担し、各国の防衛機関から軍事要員が派遣されます。しかし、国際連合広報センターは2012~2013年度の平和維持に用いられた予算が73億ドルにとどまると発表しており、世界の軍事費の0.5%にも満たないことから、十分な活動が行われているとは言い難い状況が続いています。
しかし、支援が不足しながらもPKOは献身的な活動を継続しており、最近では、インフラの整備や食料供給、市民の保護といった任務にも従事し、世界平和の回復に勤めています。
子どもを虐待から守る取り組み:ネウボラ(フィンランド)
フィンランドで取り組まれているネウボラとは、妊娠期から就学前までの間、担当の保健師が子育てに関するさまざまな問題にワンストップで対応する仕組みです。
誰でも無料で利用できる敷居の低さから、ほぼ100%の妊婦がこのサービスを利用していると言われ、ネウボラにより虐待率が減少していると指摘する統計もあります。
費用は政府が負担するため予算が必要になりますが、フィンランドのある自治体ではネウボラに予算を回したところ虐待事後のケア費が削減され、総支出が減ったという事例があり、ネウボラは費用対効果が高い虐待予防策として世界から注目されています。
5.まとめ
戦争による被害者は年々減少していますが、殺人により年間50万人近くが命を落としており、子どもが犠牲となるケースも少なくありません。
暴力に関する問題を受け、SDGsでは目標16「平和と公正をすべての人に」を掲げ、世界中から犯罪や紛争をなくし、子どもたちが暴力におびえずに安全に暮らせる環境を目指しています。
PKOといった世界規模の平和活動もありますが、フィンランドのネウボラのように各国の政策による更なる取り組みも期待されます。