増加する災害による貧困への対策 SDGs~目標1.貧困をなくそう~
自然災害による被害は年々増加していますが、中でも途上国や貧困層が受ける被害が浮き彫りとなっています。
多発する自然災害により負の連鎖が繰り返され貧困が深刻化するなど、災害と貧困は切り離せない問題であるとして、SDGsでは貧困層の災害に対する脆弱性を解決するための目標が作られました。
今回は、SDGsの目標1「貧困をなくそう」と、災害と貧困の関係性、増え続ける災害への対策について詳しく見ていきます。
目次 [非表示]
1.SDGs目標1「貧困をなくそう」とは
SDGsの目標1「貧困をなくそう」には、目標達成のために7つのターゲットが設定されています。中でも自然災害による貧困層への影響に注視しているのが5番目のターゲットです。
1-5:2030年までに、貧困層や脆弱な状況にある人々の強靱性(レジリエンス)を構築し、気候変動に関連する極端な気象現象やその他の経済、社会、環境的ショックや災害に暴露や脆弱性を軽減する。
SDGsでは、自然災害に対する備えの無い貧困層の人々に対し、経済的な支援だけではなく自然災害に対しての強靭性も得られるよう援助する必要があるとしています。
次の章から、自然災害が貧困層に与える影響について、詳しく見ていきましょう。
2.貧困を加速させる自然災害
天候や地震といった自然災害は、戦争と違い国や地域を選びません。しかし、1980年から2017年に起こった自然災害に起因する死者数を世界最大のデータベースであるドイツのStatistaのデータから見てみると、上位10件中9件が開発途上国で発生していることが分かります。
これは、先進国と比べて開発途上国の災害に対する強靭性の低さが原因であることは言うまでもありません。
自然災害は、地域社会の貧困を進める原因であり、世界銀行の報告によれば異常気象は年間5,200億ドルの経済損失を生み出し、毎年2,600万人が貧困に陥る状況を作り出しているとしています。
例えば、2010年にバングラディシュで発生したサイクロンでは、失業率が49%、貧困率が22%上昇し、2005年にグアテマラを襲ったハリケーンでは、全児童の7.3%にあたる子どもが学校を退学し仕事を手伝うといった結果をもたらしました。
3.貧困に苦しむ人が自然災害に脆弱な理由
同じ規模の自然災害が発生しても、富裕層と貧困層では受けるダメージが異なります。
金銭的にゆとりのある富裕層は、損害保険に加入し、免震設計が施された住宅を購入できます。仮に、災害によって住宅が損壊しても、新しくローンを組んで住宅を建て直すことも可能です。
ところが、貧困層ではそういった災害対策ができません。途上地域では多くの貧困層が農業従事者ですが、被災すると他地域への避難を余儀なくされるため、住まいだけでなく仕事も奪われてしまいます。
多くの貧困層で貯蓄が不足しているため、お金のために農機具を売却する、就学中の子どもを退学させ仕事を手伝わせるといった手段を取らざるを得ない状況に陥ってしまいます。目先の収入のために長期的に見て損失となる対応を取らざるをえず、貧困が進んでしまうのです。
4.防災に万全ではない途上国
開発途上地域で被災者が多い原因として、災害に弱い貧困層が多いことが挙げられますが、国や地域そのものが防災に対して十分な対策を講じていないことも原因のひとつ考えられます。
なぜ途上国では防災対策が不足しているのか、国や地方政府といった視点から見てみましょう。
政府に災害対策機関がない
多くの開発途上国で、中央政府や地方自治体に防災関連の部局がありません。こういった地域では、災害が発生してから事後対策を行うことが一般的であり、防災関連の法整備が不完全であるケースが少なくありません。
防災への投資が少ない
開発途上国の多くは、防災対策を開発計画に組み込んでおらず、インフラ整備などの開発が優先されるため、災害対策予算が限られています。そのため、被災後に多額の復興費用が必要になる可能性が高く、負のスパイラルに陥りやすいのです。
例えば、内閣府のデータによると1988年にアルメニアで発生した大地震では国内総生産(GDP)の約1.8倍が失われ、1996年に起きたモンゴルの森林火災ではGDPの半分が消失したと言われています。ところが日本で起きた阪神淡路大震災の場合、都市部を襲った未曾有の災害であるにも関わらず経済損失はGDPのわずか2%に過ぎませんでした。
同じような規模の災害であっても、国家の防災に対する投資額により、経済に与えるダメージにギャップが生じています。
災害・防災情報へのアクセスがない
台風や洪水は、地震と違って進路や到達時間をある程度予測できます。予測データを把握できれば事前に避難して被害を最小限に抑制できるでしょう。
ところが、貧困層の多くはラジオやテレビといった情報伝達手段を持っておらず、情報の周知が難しい状況です。また、政府がハザードマップや地震危険度マップなどを作成しても、十分な広報活動を行わないために、住民に普及せず災害リスクを正しく理解されていないケースが多いのです。
5.SDGsにも明記された「仙台防災枠組2015-2030」とは
2030年までの国際的な防災の取り組み指針となっているのが、2015年に宮城県仙台市で開催された「第3回国連防災世界会議」の成果文書である「仙台防災枠組2015-2030」です。
仙台防災枠組では、災害による死亡者の減少といった項目に対し、地球規模での目標を初めて設定しました。また、防災の主流化や防災投資、復興過程における「より良い復興(Build Back Better)」などの、防災に関する新しい考え方を提示し、革新的な取り組みが評価されています。
SDGsの目標1「貧困をなくそう」でも、達成指標に「仙台防災枠組に沿った国家レベルの防災戦力を採択し実行している国の数」を採用しています。
仙台防災枠組を通した活動により、国際的な防災戦略の浸透が期待されます。
6.まとめ
世界規模で発生する自然災害において、被害の多くが開発途上国を始めとした貧困層に集中しています。これは、国家自体に災害を未然に防ぐ予算やノウハウが無いことや、場当たり的な対応を行わざるをえない貧困層の人たちが、負のスパイラルに陥ってしまっていることが原因です。
SDGsでは、こういった人々を自然災害から守り、貧困を無くすために目標の1を設定し、国家が主導して災害対策を行えるシステムの構築を目指しています。