途上国を救う緑の気候基金 SDGs~目標13.気候変動に具体的な対策を~
途上国は貧困により気候変動から受ける被害が大きく、気候変動に対する脆弱性が指摘されています。しかし、開発を優先する途上国は温室効果ガスの排出削減という「緩和」行動への意識が低い場合が多く、先進国が責任を持って途上国の緩和をサポートしなければなりません。
そこでSDGsでは資金面から気候変動の影響を軽減しようと、緑の気候基金(GCF)の本格始動を目指したターゲットを制定しました。
この記事では、国際的な気候変動対策をSDGsとGCFの2つの視点から解説します。
目次 [非表示]
1.SDGs目標13「気候変動に具体的な対策を」とは
気候変動をはじめとした地球規模の国際問題を解決するために、2015年9月に開催された国連サミットでSDGsが採択されました。
SDGsでは、2030年までに解決すべき問題を17の目標に分け、達成に必要な具体的なターゲットを169個設定しています。
目標の13番目「気候変動に具体的な対策を」には、気候変動による影響を軽減するためのターゲットが5個ありますが、そのうち次のターゲットは問題解決に要する資金確保を目指したものです。
13-a:重要な緩和行動の実施とその実施における透明性確保に関する開発途上国のニーズに対応するため、2020年までにあらゆる供給源から年間1,000億ドルを共同で動員するという、UNFCCCの先進締約国によるコミットメントを実施し、可能な限り速やかに資本を投入して緑の気候基金を本格始動させる。
※UNFCCC…1992年に採択、1994年に発効された気候変動枠組条約。先進国の温室効果ガス排出抑制を規定。
多くの途上国は自国発展のために気候変動に対処できる余裕がなく、温室効果ガスの排出削減という「緩和行動」に対応できません。そこで先進国が中心となり、年間1,000億ドルを拠出して途上国を支援すると明記しました。
年間1,000億ドルの拠出にはGCFが重要なカギとなっています。GCFとはどのようなものなのでしょうか。
2.SDGs目標達成に不可欠な緑の気候基金(GCF)
2010年に設立が決定したGCFは、2015年に日本が拠出を表明したことで支援開始の目途が立ち、初めて案件が採択されました。
改めてGCFの役割を見ていきましょう。
緑の気候基金(GCF)の目的
GCFは途上国の温室効果ガス削減(緩和)と気候変動の影響への対処(適応)を支援するための資金運営を委託された基金です。
集められた資金は緩和と適応に半分ずつ分配され、適応への分配額のさらに半分が後発開発途上国(LDCs)や小島嶼開発途上国(SIDS)、アフリカ諸国といった貧しい国々に割り振られます。
資金支援において優先度が高い分野として、戦略的に次の8つが定義されました。
・緩和分野
①運輸、②ビル・都市・産業・家電、③発電とアクセス、④森林・土地利用
・適応分野
⑤健康維持・食糧・水の安全、⑥住民の生活とコミュニティ、⑦インフラ、⑧エコシステム
緑の気候基金(GCF)主要国による拠出割合
国際社会はGCFに対して、初期拠出(2015~2018年)では43カ国から総額約103億ドル、第1次増資(2020~2023年)では29カ国が総額約98億ドルの拠出を表明しています。
初期拠出 | 第1次増資 | |
---|---|---|
日本 | 15億ドル | 最大15億ドル |
イギリス | 12億ドル | 18.5億ドル |
フランス | 10億ドル | 17.4億ドル |
ドイツ | 10億ドル | 17億ドル |
スウェーデン | 5.8億ドル | 8.5億ドル |
アメリカ | 30億ドル(うち10億ドル拠出) | 未拠出 |
その他 | 計20億ドル | 計21.6億ドル |
プレッジ総額 | 約103億ドル(拠出は約83億ドル) | 約98億ドル |
初期拠出において、当初はアメリカが約30億ドルを捻出し最大の拠出額となる予定でしたが、政権交代により拠出は約10億ドルにとどまり、日本が最高額約15億ドルを拠出することになりました。
緑の気候基金(GCF)で日本が担う役割
拠出主要国の中でもとりわけ支援額が大きい日本ですが、日本企業でGCFの認証機関に認定された団体はJICAと三菱UFJ銀行の2つです。
認証機関とはGCFの資金を活用してプロジェクトを遂行する機関を指し、国際機関や各国政府、民間企業など官民問わず認証機関申請を行うことができます。これまでに95機関が認定されました。
認証機関としての働き以外にも、日本はGCFの最高意思決定機関である理事会に参加し、基金運営にも積極的に貢献しています。
3.緑の気候基金(GCF)による成果
現在(2020年3月末時点)までにGCFが採択した案件は129件で、以下のような取り組みが行われています。
・ハイチ:電源がない地域での太陽光発電開発
・フィリピン:マルチハザード早期警告システムの構築
・コモロ:気候変動に強い水供給インフラの整備
・バングラデシュ:沿岸コミュニティの女性農家のエンパワーメント
外務省のデータによると、これらのプロジェクトにより約16億トンの二酸化炭素排出量の削減が見込まれ、約3億5,000万人が恩恵を受けるとされています。
4.緑の気候基金(GCF)の本格始動を妨げる要因
第1次増資の決定や案件の遂行など順調に見えるGCFの運営ですが、様々な問題により本格的な始動には至っていません。
主な原因を2つご紹介します。
先進国と途上国の意見不一致
GCFに対する途上国の期待は高いものの、基金の配分調整を巡り先進国と途上国で軋轢が生まれています。
先進国、途上国の両方が認証機関(案件を提案する団体)になる権利を有していますが、国立研究開発法人国立環境研究所の報告書によると、2019年9月時点で承認案件111件のうち77.5%が先進国側の認証機関が提出したもので、資金供給側が主導していると言わざるを得ません。
そのため、途上国のニーズに合致しない案件が採択される、あるいは途上国の需要に合った資金配分がされないといった問題が生じています。
拠出額の不足
SDGsでは気候変動による途上国の緩和策に対応するために、年間1,000億ドルの資金動員を掲げ、その一助としてGCFを本格始動させることを明記しました。
しかし、GCFによる2015~2018年の拠出額は約83億ドルに留まり、1年当たり20.7億ドルの資金拠出しかできていません。これは年間1,000億ドルの目標のわずか2%です。
2020~2023年の拠出予定額は約98億ドルと初期の実拠出額より15億ドル上回ることが予定されていますが、アメリカの未拠出といった問題があり、他主要国の負担が増加しています。
5.まとめ
気候変動による途上国の支援に向けて、SDGsでは年間1,000億ドルの資金動員という目標を立てました。目標達成のために重要視されているのがGCFです。
2010年に設立されたGCFは、気候変動による緩和・適応のための資金確保と案件遂行を担う基金です。初期拠出、第1次増資を合わせて約181億ドルの拠出が見込まれており、日本は約30億ドルを拠出する予定です。
途上国を中心に支援が行われる予定で、これまでに129件の案件が採択され、約16億トンの二酸化炭素排出量が削減されるだろうと推測されています。
しかし、先進国主導による基金運営で途上国との利益相反が発生し、拠出額も不足していることから本格的な始動はできていないといえるでしょう。