開発途上国の海洋資源の課題と国連海洋法条約とは SDGs~目標14.海の豊かさを守ろう~
誰ひとり取り残さずに持続可能な世界を実現するための国際目標SDGs。
その中には、海に支えられている開発途上国の発展を助け、その海洋資源を保全しようとする取り組みがあります。
資源が乏しい小島で構成されるような国々にとって、海は唯一といっても良い重要な資源です。
今回は、開発途上国の海洋資源を守るSDGsの内容と、開発途上国における海の重要さや課題、国連海洋法条約(UNCLOS)についてご説明します。
目次 [非表示]
1.SDGs目標14「海の豊かさを守ろう」とは
2015年に採択された「持続可能な世界を目指す国際目標(SDGs)」は、地球上のあらゆる問題を確実に解決するために、17の目標とその具体策であるターゲットで構成されています。
14番目の目標である「海の豊かさを守ろう」では、海洋の汚染問題や生態系保全、海洋資源の持続的な利用などについて触れています。
今回は、その中の海洋資源の利用について見ていきましょう。
<SDGs目標14の海洋資源に関するターゲット>
・14-7:2030年までに、漁業、水産養殖及び観光の持続可能な管理などを通じ、小島嶼開発途上国及び後発開発途上国の海洋資源の持続的な利用による経済的便益を増大させる。
・14-b:小規模・沿岸零細漁業者に対し、海洋資源及び市場へのアクセスを提供する。
・14-c:「我々の求める未来」のパラ158において想起されるとおり、海洋及び海洋資源の保全及び持続可能な利用のための法的枠組みを規定する海洋法に関する国際連合条約(UNCLOS)に反映されている国際法を実施することにより、海洋及び海洋資源の保全及び持続可能な利用を強化する。
ここに登場する「小島嶼開発途上国」とはどんな国々か、開発途上国の海洋資源利用の課題、UNCLOSとは何か、このあと詳しく解説します。
2.海洋資源が開発途上国を支えている
ターゲットに記載されていた「小島嶼開発途上国(しょうとうしょ かいはつとじょうこく)」とは、小さな島で国が構成されている開発途上国を指し、SIDS(Small Island Developing States)と呼ばれます。
太平洋、カリブ、アフリカ地域などを中心に51の国と地域があり、少ない人口、国際市場からの距離、自然災害の多発などのため持続的な開発が難しいとされています。
多くのSIDSは水産業と観光業が主力であり、海洋への依存度は非常に大きいですが、環境汚染や違法な乱獲などによって、その限られた海洋資源は失われつつあります。
3.国連が危惧する開発途上国の海洋資源問題
SIDSをはじめとした海洋資源に頼る開発途上国には、発展を妨げる様々な問題があります。その主なものをご紹介します。
地球温暖化
温暖化による海面上昇でツバル諸島などが危機にさらされていることは有名ですが、土地の減少だけでなく海洋資源にも影響が出ています。
大気中に大量の二酸化炭素が増えると海に取り込まれ、海洋の酸性化が起こります。酸性化によってサンゴ礁は白化や死滅に追いやられ、サンゴに依存する生態系も被害を受けます。
美しい景観も失われ、観光事業においてもそのダメージは計り知れません。
海洋汚染
世界各国から流れ着いたプラスチックごみが開発途上国にも大きな被害を与えています。
アジア太平洋経済協力(APEC)の発表では、プラスチックごみによるアジア太平洋地域の年間損失は観光が6.2億ドル、漁業は年間3.6億ドルと推定されています。
また、国内で発生する廃棄物や下水に対するインフラが不十分な地域が多く、開発途上国自身による水質汚染も問題になっています。
IUU漁業(違法・無報告・無規制漁業)
IUU漁業とは、「密漁や禁止漁具使用などの違法行為」「漁獲量を正確に報告しない無報告行為」「国や海域の規制を無視する無規制行為」の3種の漁業を指す言葉です。
世界の海洋水産資源が減少傾向にある中で、全体の約33%は過剰漁獲だといわれており、 IUUの撲滅は重要な国際課題となっています。
資金や人員の不足から十分なIUU対策を打てない開発途上国周辺では乱獲が多く、海洋資源が特に減少しています。
主要市場への距離
インフラが整っていない小さな島々では主要な市場までの距離が遠く、獲れた魚を卸すまでに多大な労力と時間が必要です。
市場までの距離の遠さは、運搬手段の手配や燃料費がかかるだけでなく、魚の鮮度にも関わり、市場価格においても不利になります。
また、海に囲まれた環境のため、インフラは飛行機と船に頼らざるを得ず、資金力と天候の影響を大きく受けます。
冒頭にご紹介したSDGsのターゲットは、こういった諸問題を解決するために作られたということが分かります。
4.海洋資源の権利と保全を定める国連海洋法条約(UNCLOS)
UNCLOSとは正式名称を「海洋法に関する国際連合条約」といい、世界の海洋における運行や資源における国際的な権利義務を定めた条約です。
1982年12月に採択され、2020年3月現在168カ国が参加しています。
この条約によって、各国の領海や排他的経済水域が設定され、運行の自由、海洋資源の権利、生物資源の保存や管理の義務などが明確化されました。
<条約の一例>※外務省「海洋の国際法秩序と国連海洋法条約」より抜粋
・沿岸国の主権は,領海に及ぶ。領海に対する主権は条約等に従って行使される。
・沿岸国は,排他的経済水域EEZ(海底及びその下を含む)において,天然資源(生物・非生物を問わない。)の探査,開発,保存及び管理等のための主権的権利を有する。
・公海はすべての国に開放され,すべての国が公海の自由(航行の自由,上空飛行の自由,漁獲の自由,海洋の科学的調査の自由等)を享受する。
・いずれの国も深海底又はその資源について主権又は主権的権利を主張し又は行使してはならない。
IUU漁業の対策ともなる「国連公海漁業協定」や公海の資源管理機関「地域漁業管理機関(RFMOs)」なども国連海洋法条約に基づいて発足されています。
SDGsでは、経済的に立場の弱いSIDSなどの権利や資源を国際法に則って守り、持続可能な海洋資源の利用をしようと伝えているのです。
5.まとめ
世界の海洋資源は減少傾向にあり、海洋資源に依存度の高いSIDSをはじめとした沿岸の開発途上国は危機に瀕しています。
地球温暖化や海洋汚染による生態系の破壊、乱獲を繰り返すIUU漁業、主要市場への距離など多くの課題があります。
しかし、海洋資源の権利と保全を定めるUNCLOSに則り、各国が協力することによって、開発途上国の権利を守り、海洋資源を持続可能にすることができるとSDGsは訴えています。