開発途上国の産業GDPを成長させるハイテク産業 SDGs~目標9.産業と技術革新の基盤をつくろう~
低所得者が多い途上国では資金不足などにより研究や技術開発に消極的で、技術革新(イノベーション)が不足しています。
イノベーションは産業生産性を上げる重要な要素であり、SDGsではハイテク産業支援から途上国の産業化を推進しています。
今回は、イノベーション促進を掲げるSDGsと、途上国におけるハイテク産業の実態、日本による途上国への支援をご紹介します。
目次 [非表示]
1.SDGs目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」とは
「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称であるSDGsは、2030年までに達成すべき世界共通の目標です。2015年の国連サミットで150カ国以上の加盟国のもと採択されました。
そのアジェンダには17の目標を記し、更に169個のターゲットを設定していますが、目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」は産業化とイノベーションの促進を図るものです。そのうち、イノベーションと研究に関するターゲットには次の3つがあります。
・全ての国でイノベーションと科学研究を促進させる
・途上国内の技術開発、研究、イノベーションを支援する
・後発開発途上国で安定的なインターネットアクセスを拡大させる
※これらは、各ターゲットの要約になります。
研究やイノベーション、インターネットアクセスの改善はハイテク産業の成長に貢献すると考えられています。ハイテク産業は給与水準が高い雇用の創出や、労働生産性の向上に結びつくため、途上国のGDP成長に欠かせない産業のひとつです。
しかし、今の途上国にはハイテク産業が育つ土壌がありません。なぜ途上国でハイテク産業が成長しにくいのか、先進国として途上国に何ができるのか、次の章から詳しくご説明します。
2.国を豊かにするハイテク産業
そもそもハイテク産業とは先端的な技術を要する産業を指す言葉です。経済協力開発機構(OECD)は、製造額に対して研究開発費の割合が高い5つの産業(航空・宇宙、事務機器・電子計算機、電子機器、医薬品、医用・精密・光学機器)をハイテク産業としています。
ハイテク産業は高度な技術が求められるため、科学技術の国際的な競争力を測る指標にもなっています。
OECDの統計によると、日本はデータがある1981年から2002年まで、ハイテク産業貿易収支比で1位でしたが、2003年に韓国に、2008年には中国にも抜かれ、2015年に6位まで下落しました。
ハイテク産業の輸出額で見てみると、2016年のOECDのデータでは中国が約6,964億ドルと突出しており、次いでアメリカが約3,782億ドル、ドイツが約1,600億ドルと続きます。
しかし、ブラジルやインドといった新興国や途上国のハイテク分野は輸入に頼っており、特に育ちづらい産業であることが分かります。
3.途上国でハイテク産業が育たない理由
途上国ではなぜハイテク産業が成長しにくいのでしょうか。背景には、研究開発への投資が少ないこと、インターネットアクセスが不足していることなどが考えられます。
理由①.研究への投資不足
国際開発センター(IDCJ)の資料によると、2014年の世界のGDPに占める研究開発費は1.7%で、2000年の1.5%から増加しています。
しかし内訳を見てみると、先進国はGDPの2.4%、途上国は1.2%、後発開発途上国に至っては0.3%と、先進国と途上国の間でギャップが大きいと言わざるをえません。
研究者の数については、世界平均で100万人当たり1,098人とされていますが、先進国の3,739人に比べ、後発開発途上国では僅か63人となっています。
生産性向上は国内の貧富の差を解消し、ひいては先進国とのギャップを埋める重要なファクターですが、研究開発費や研究者が少ないと、イノベーションが生まれづらく産業生産性が向上しにくくなってしまいます。
理由②.政府の未熟なサポート
先進国が技術革新を起こすと途上国が応用し、世界全体で技術レベルが上がるという循環が理想的ですが、途上国ではイノベーションを発展させる政策が少ないため先進国の技術を受け入れられないケースが多く見受けられます。
例えば、1900年代のアメリカとチリを比べると、技術者の数に大きな開きはなかったものの、アメリカは教育機関を多く設立、対してチリは研究家の投資に消極的な姿勢を続けました。その結果、今では所得に倍以上の開きができています。
イノベーション促進には、政府だけでなく企業の力も必要です。企業による投資や競争、貿易、研究といった貢献が求められますが、途上国では積極的に技術革新に取り組む企業も不足しています。
理由③.インターネットアクセス
IDCJは2016年時点で世界人口の84%が3Gサービスの提供可能範囲にあるとしています。しかし、世界の半数以上の人は経済や能力の問題でアクセスできない状況にあり、後発開発途上国でインターネットアクセスが可能な世帯は全体の11%しかありません。
インターネットは、知識へのアクセスに大きく貢献します。ネット環境さえあれば、地球上のどこでも論文や研究データを閲覧できますが、普及率が低いままではイノベーションに必要な最低限の情報収集すら十分にできません。
4.途上国への日本型教育の輸出
ハイテク産業の成長が難しい途上国で、「研究」という側面からイノベーションを促進しようと、日本は政府開発援助(ODA)によりエジプトに日本型の大学を設立しました。
エジプトは国立大学無償化により大学進学者数が増加し、大学・教員の数が不足することで教育の質が低下しています。特に理工学分野においては国内に教育機関や人材が少なく、優秀な人材が国外へ流出する事態に発展しました。
そこで日本型工学教育の特性を活用し、日本の12大学が連携して国際水準の大学を設立すべく、2008年から支援を行っています。
設立された「エジプト日本科学技術大学(E-JUST)」は中東・アフリカ地域で最高峰の大学を目指しており、国際社会をけん引する優秀な人材育成に貢献しています。
5.まとめ
途上国で先端技術を必要とするハイテク産業は育ちにくく、イノベーションが生まれず産業生産性が低いという問題があります。
そこでSDGsでは途上国の技術開発やイノベーション促進、インターネットアクセスの拡大を標榜し、ハイテク産業の育成を目標に取り入れました。
2030年までに目標達成すべく、日本を始め先進国は途上国に対して惜しみない支援が求められます。