世界の水不足を救う統合的水資源管理とは SDGs~目標6.安全な水とトイレを世界中に~
いま世界では、人口増加や気候変動などによる水資源の枯渇が危惧されており、経済協力開発機構(OECD)は、2050年には世界人口の40%以上が深刻な水不足に陥ると予測しています。
持続可能な世界を目指すSDGsでは水資源問題を解決するための目標を設定し、各国に改善を促しています。
今回は、SDGs目標6「安全な水とトイレを世界中に」をふまえて、世界各地の水資源問題と複雑に絡み合う水問題を解決する「統合的水資源管理」について解説します。
目次 [非表示]
1. SDGs目標6「安全な水とトイレを世界中に」とは
2015年に国連で採択された持続可能な世界を作るための国際目標「SDGs(Sustainable Development Goals)」は、2030年までに達成するべき17の目標とそれを実行するための具体的なターゲットを設定しています。
第6の目標「安全な水とトイレを世界中に」では、水の汚染問題、衛生的な水の普及、生態系の保護などに触れていますが、以下のターゲットでは水資源問題の解決を求めています。
6-4:2030年までに水利用の効率を改善し、持続可能な採取および供給を確保し、水不足に悩む人の数を大幅に減少させる。
6-5:2030年までに国境を越えた適切な協力を含む、あらゆるレベルでの統合的水資源管理を実施する。
6-a:2030年までに開発途上国における水と衛生分野での国際協力と能力構築支援を拡大する。
※SDGs目標6「安全な水とトイレを世界中に」より抜粋・要約しています。
水不足に悩む地域の問題とは何か、国境を超える統合的水資源管理とはどんな内容か、詳しく見ていきましょう。
2.水資源の利用に関する課題
慢性的な水不足に悩む地域では、どのような水資源問題を抱えているのでしょうか。代表的な4つの課題について解説します。
気候変動による渇水と水資源供給障害
地球温暖化による気候変動が水資源の安定供給を阻む一因とされています。
温暖化によって従来の降水パターンが変化しており、大雨や干ばつの増加により水資源量に時期的な偏りが出ています。水が必要な時期に足りないという事態も増え、年間の降雨量が水準に達しているにも関わらず、月単位、季節単位で見ると水不足が報告されているのです。
また、都市部においても台風や洪水などの災害で水のインフラ機能が停止するケースもあり、経済や社会活動にも影響を及ぼしています。
国境をまたぐ水源の権利
大陸をながれる大きな国際河川の場合、1本の河が複数の国の貴重な水源になります。現在、確認されているだけでも複数の国家が使用権を持つ河川・湖沼は214にも上りますが、その権利をめぐって水紛争と呼ばれる争いが各地で起こっています。
例えば、世界で2番目に長いナイル川は、エジプト、スーダン、エチオピアなどを始め9カ国が水源として利用していますが、2010年以前はエジプトが使用権を独占していました。他国は発電や生活用水の利用にも許可が下りない状況が続き、ダム建設や水の配分を巡って紛争が起きました。
また、中国からベトナムに向かって流れるメコン川では、上流の中国が許可なく大規模なダムを建造したことで、下流のカンボジア、タイ、ラオス、ベトナムといった国々ではメコン川の急激な水位低下が続き、農業や漁業、生態系に深刻な被害を及ぼしており、世界的に批判が高まっています。
このように、水資源確保は力を持った国の利益が優先される傾向にあり、平等に資源を分配することは非常に難しい問題となっているのです。
適正な保全下にない地下水
豊富な地下水は穀倉地域などで重宝されていますが、過剰なくみ上げによる地盤沈下や資源の枯渇が問題になっています。
アメリカの例では、ワイオミングからオクラホマ、テキサスなど8州にまたがる巨大な地下水層があり一大穀倉地域となっていますが、過剰なくみ上げによってコロラド川235年分といわれる水量が2030年までに枯渇するとされています。
世界的な穀倉地帯が水不足に陥れば、食料危機が訪れます。また、農薬や産業水の浸透による汚染も進んでおり、地下水の安全性も脅かされています。
アメリカのカリフォルニア州では地下水規制法を成立させて対策を始めましたが、広い地域の利権が絡む難しさは河川と変わりません。
水源地域の環境変化
水源に近い地域の産業や人口の減少が水循環に大きな影響を与える場合もあります。
例えば、河川の上流にある豊かな森林がきれいな水質を生み、土砂の流出を防いでいる場合、上流地域の高齢化などにより森林が荒廃化すると、河川が汚れはじめ、流域一帯が影響を受けます。
同じように、上流地域で産業発展が進み、有害な工場排水が流れるようになれば、下流域でその水を生活に使用している人々は経済や健康に大きなダメージを負います。
水資源は、上流から下流まで関係地域が一体となって管理する必要があるのです。
3.統合的水資源管理の必要性の高まり
SDGsはこういった水資源問題を解決するために、「国境を超える統合的水資源管理が必要」だと提起しています。
「統合的水資源管理」とは、自然環境や生態系の持続性を維持しながら、水による経済的・社会的な恩恵を、公平に最大限に享受できるように水資源を管理する手法の総称です。
統合的水資源管理では、河、地下水、雨水、蒸発水など、自然界におけるすべての水の循環段階が管理対象とされます。
工業排水や生活排水などによって河川が汚染されれば、周囲の地下水も汚染されます。海に流れ蒸発して雲になれば、汚染された雨として地表に降り注ぎます。水は絶えず循環しているということを忘れてはいけません。
地表水、地下水、河川、上下水道と別々に考えるのではなく、すべての利害関係者を含めて水利用の安全性を考える必要があるのです。
SDGsでは各国、各地域の政府や地方自治体、住民や企業などあらゆるレベルの人々が参加する水資源管理を実施しようと訴えています。
4.日本による統合的水資源管理能力強化プロジェクト
SDGsでは自国での統合的水資源管理が難しい開発途上国に対する国際協力も呼びかけています。
日本の独立行政法人国際協力機構(JICA)では慢性的な水不足に苦しむスーダンの統合的水資源管理能力強化プロジェクトを行っています。
このプロジェクトは、水資源管理の実践を通した政策・戦略・計画等の質の向上や水資源関連事業の改善を目的としています。
スーダンは水源のほぼすべてをナイル川に依存していますが、安全な水へのアクセス率は55%程度、その貴重な水資源の90%は農業や家畜に使用され、生活用水に当てられる分はわずか3%であるにも関わらず、水量観測や設備管理が不十分で多くの課題を抱えています。
日本による支援内容は、水資源管理や表流水開発、地下水開発の専門家を現地に投入し、機材を供与、そして、スーダン側のスタッフに対し複数回の研修を行うというものです。
計画は、第一期、第二期に分けて行われ最終的には統合的水資源管理の実践から法制度・体制の完備まで提言することになっています。
5.まとめ
世界では温暖化や人口増加、過度な地下水くみ上げによる水不足が深刻化しています。また、限られた水源を複数の国や地域が利用するため、水源をめぐる争いが絶えません。
持続可能な世界を目指すSDGsは、その解決策となる統合的水資源管理の徹底と、国際協力をしようと国際社会に求めています。
常に流れ、循環する水資源は世界共通の財産です。有効活用する方策を考えていかねばなりません。