開発途上国を支援する貿易協力とは SDGs~目標17.パートナーシップで目標を達成しよう~
2015年に国連で採択されたSDGsとは、環境、社会、経済、平和、平等など、あらゆる面で持続できる世界を作るための国際的な共通目標です。
しかし、資源も教育も十分でない貧しい開発途上国にとって、社会生活の変換を求めるような目標の達成は容易ではありません。
そこでSDGsには「開発途上国の目標達成にむけて各国が支援しよう」という目標も作られています。各国のパートナーシップを求めるSDGsの目標17では、貿易に焦点をあてた支援策が記載されています。
今回は、SDGs目標17の内容と、貿易からみる開発途上国の発展課題、問題解決にむけた国際的な支援策について解説します。
目次 [非表示]
1. SDGs目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」とは
持続可能な開発目標「SDGs」は、世界が2030年までに達成するべき17個の目標とその具体策となる169個のターゲットで構成されています。
最後となる17番目の目標は「パートナーシップで目標を達成しよう」であり、資金や技術、貿易、体制など、様々な方向から開発途上国を支援するためのターゲットが定められ、特に「公平な貿易」「一貫した政策」「他国協力体制の強化」について詳細に触れています。
17-10:ドーハ開発アジェンダにおける交渉完了などにより、世界貿易機関(WTO)の下での普遍的でルールに基づいた、差別的でない、平等な多角的貿易システムを促進する。
17-13:政策協調や政策の首尾一貫性などを通じて、世界的なマクロ経済の安定を促進する。
17-16:持続可能な開発のためのマルチステークホルダー・パートナーシップによる補完を促進し、すべての国々、特に開発途上国の持続可能な開発目標の達成を支援する。
17-18:開発途上国に対するキャパシティ・ビルディング支援を強化し、各国事情に関連する特性別の質が高く、タイムリーかつ信頼性のある非集計型データの入手可能性を向上させる。
※一部抜粋・要約
開発途上国の発展が進まない要因として、国際貿易で不利なこと、自国政策と他国援助の内容が一貫しないこと、資金・知識の不足、現地情報のデータ不足などが挙げられます。
途上国の発展は、SDGsの目標達成に欠かせません。特に、貿易分野の成長は世界全体の経済成長につながるため、途上国の事情に配慮した貿易支援策の強化が求められています。
2. 貿易からみる開発途上国の発展課題
多くの開発途上国の主要産業は農業、漁業、林業のため、経済発展には海外諸国との貿易が欠かせませんが、以下のような不利な条件が課題となっています。
・国際市場まで遠く輸送コストが大幅にかかる
・市場、貯蔵設備、運送などのインフラが整っていない
・教育、技術不足による衛生・品質の不安定さ
・情報不足による、中間業者からの搾取
・先進国中心の貿易ルールになっており、他国製品の輸入を求められる一方、自国製品の輸出には高い関税をかけられる
・途上国内の開発政策と他国からの援助政策に一貫性がなく、援助によって輸出などの産業が圧迫されるケースがある
WTOによって2001年から開催されている途上国が参加する貿易交渉「ドーハ・開発・アジェンダ(ドーハラウンド)」では、途上国製品の関税をゼロにする取り決めなどがされましたが、各国の利害調整なども難航し、諸問題に対する効果はあまり出ませんでした。
そこで、実情をより踏まえた国際協力が必要であると改めて確認され、途上国それぞれの詳しい情報を集めて丁寧な対策を打ち出す支援方法がとられるようになりました。
3.貿易問題の解決を図る支援策「マルチステークホルダー・パートナーシップ」
前述のとおり、開発途上国の貿易問題はインフラ整備、教育、情報、政策との一貫性、政治など、地域特有の様々な要素が絡み合っています。その解決策として、SDGsでは「マルチステークホルダー・パートナーシップ」を促しています。
マルチステークホルダー・パートナーシップとは、共通の目標を達成するために、あらゆる立場の人間や団体、専門家が意見や能力を出し合い、リスクや責任、利益などを共有して活動する制度です。
対象となる途上国の課題に対して、解決のカギとなる能力を持った人物や団体(ステークホルダー)が協働し、具体策をもって解決に取り組むため高い成果が期待されています。
国連グローバル・コンパクト(UNGC)の署名企業が参加するグローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)の活動事例では、会員の建築系企業がインドネシアで植林・育林と建材製造業を、建設重機メーカーがカンボジアの地雷撤去や道路建設などを行っています。
植林や建材製造は輸出製品を持続可能な形で生み出し、地雷撤去や道路建設は農地開拓や市場までのインフラ整備になります。地域に密着した地道な活動が途上国の生活を助け、貿易問題を解決に近づけているのです。
4.開発途上国の貿易能力を向上させるキャパシティ・ビルディング支援
先進国が中心となって作られた現在のWTOのルールでは、競争力が低い途上国は不利になりやすいため、新たな貿易交渉への参加を控えることも少なくありません。
途上国の経済を活性化するためには、国際社会と対等に取引できる貿易能力を育成して、新たな交渉にのぞむ機会を与えなければなりません。
そういったことを踏まえて、SDGsでは「キャパシティ・ビルディング」という支援策を推奨し、各国に参加を促しています。
キャパシティ・ビルディング支援とは
キャパシティ・ビルディングとは、途上国自身の能力の構築・向上を目的とした支援策のことであり、金融や司法などあらゆる分野で注目されている方法です。
貿易分野では、貿易・協定についてのセミナー開催、産業育成・中小企業人材育成、研修員の受け入れや専門家の派遣等の技術支援などが対象国のニーズに合わせて行われます。
また、日本でも途上国の要請に基づいたWTOキャパシティ・ビルディング協力プログラムをフィリピンやカンボジアなどで実施しています。
日本のキャパシティ・ビルディング支援策
日本では2005年のWTO香港閣僚会議に先立ち「開発イニシアチブ」と呼ばれる、キャパシティ・ビルディング型の支援策を発表しています。
開発途上国が自由貿易制度の中で利益を得るためには、「競争力のある製品の生産」「物流体制の整備」「市場開拓」の3つが必要です。カンボジアの例では、次の3つの分野の支援策を同時進行させています。
・生産:農業生産性の強化、技術協力
・物流・販売:道路・港湾整備、経済特区の建設、輸出産業の育成
・市場開拓:開発途上国の無税無関税措置、日本国内での販売イベントなどによる販路確保
各分野で資金・知識・技術・人・制度といった施策を組み合わせて、途上国の生産労働者と消費者を結びつけ、生産から購買まで全体の流れを考慮した支援方法です。
この支援方法は日本発の地域経済振興策として、アフリカや東南アジアでも積極的に取り入れられ、国際的な支援方法のひとつとして役立っています。
5. まとめ
SDGsでは、環境、社会、経済などあらゆる分野に国際目標が立てられていますが、貧しい開発途上国にとっては厳しいものばかりです。
そのような事情に配慮してSDGsでは最後の目標17に、途上国の目標達成を支えるための国際協力を掲げました。途上国の経済発展に欠かせない「貿易」には特に重点が置かれています。
教育やインフラ、資金などに乏しい途上国は現在の自由貿易制度では不利になります。
途上国の国際競争力を強化する支援策として、各国の課題に対して具体策を提案できるマルチステークホルダー・パートナーシップや、貿易産業や人材の育成を図るキャパシティ・ビルディングに期待が集まっています。