発展と環境保全を両立させる開発途上国の貿易支援とは SDGs~目標8.働きがいも経済成長も~
地球上に残っている自然の多くは開発途上国にありますが、拡大する経済活動のために森林伐採や環境汚染が深刻化し、世界中に大きな影響を与えています。
気候変動や環境汚染、生態系の破壊、資源の枯渇など様々な問題が叫ばれていますが、増え続ける人口を賄うためには、開発途上国も成長を続けなければなりません。
こうした途上国の経済発展と環境悪化の関係を分断するために、SDGsでは国際社会全体に協力を呼びかけています。
今回は、途上国の経済成長と環境問題に触れているSDGs目標8と、途上国の貧困と環境保全の関係、問題を解決するための支援策などについて解説します。
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1.SDGs目標8「働きがいも経済成長も」とは
2015年に193の国連加盟国によって採択されたSDGsは、世界中のあらゆる問題を解決するために掲げられた国際目標です。持続可能な世界をつくるために17個の目標と169個のターゲットが設定されています。
SDGs目標の8「働きがいも経済成長も」には、12個のターゲットが設定されていますが、その中に、開発途上国の経済と環境に触れている項目があります。
8-1:各国の状況に応じて、一人当たり経済成長率を持続させる。特に後発開発途上国は少なくとも年率7%の成長率を保つ。
8-4:2030年までに、世界の消費と生産における資源効率を斬新的に改善させ、先進国主導の下、持続可能な消費と生産に関する10カ年計画枠組みに従い、経済成長と環境悪化の分断を図る。
8-a:後発開発途上国への貿易関連技術支援のための拡大総合フレームワーク(EIF)などを通じた支援を含む、開発途上国、特に後発開発途上国に対する貿易のための援助を拡大する。
ここに登場する「後発開発途上国」とは、開発途上国のなかでも特に貧しいとされる国々です。十分な資金や教育制度がなく、無計画な森林伐採や非効率な生産を行っているため、国際貿易においても不利な環境にあります。
世界全体の経済成長率3%に対して、後発開発途上国の年率7%という数字は決して容易な数字ではありませんが、それだけ急務ということです。
SDGsでは、途上国の環境を悪化させない経済発展を助けるために、消費と生産の効率改善と、利益をもたらす貿易技術の支援を先進国に呼びかけています。
2.後発開発途上国の貧困と環境保全の関係
後発開発途上国(LDC:Least Developed Country)とは、国連開発計画委員会の基準に基づいて国連総会によって認定される「特に開発の遅れた国々」を指しており、2018年時点で47カ国となっています。
後発開発途上国の認定基準は以下の通りです。
・1人あたりのGNI(国民総所得)が1,025米ドル以下
・人的資源の程度を表すHAI(栄養不足人口割合、乳幼児死亡率、教育就学率、識字率の指標)が基準値以下
・外的ショックからの経済的脆弱性を表すEVI指標が基準値以下
後発開発途上国には手つかずの自然環境が残されており、これらの保全は地球全体の課題です。しかし、地域住民の生活と自然は密接な関係にあり、貧しい人々にとって環境保全は容易ではありません。
後発開発途上国で起こっている、貧困と環境問題の関係をみてみましょう。
アフリカ
47カ国ある後発開発途上国のうち、33カ国がアフリカのサハラ砂漠以南に集中しています。貧困率は41%にも達し、ほとんどの国が森林という限られた資源に依存して生活しています。
しかし、人口増加に伴ってエネルギー燃料や食料が不足したことで、過剰な伐採や焼畑農業の短縮化が進み、驚異的な速さで森林が消失しています。こうした動きも少なからず気候変動に影響を与え、干ばつや洪水の頻発・農地や家畜の減少につながり、さらなる貧困に陥っています。
アジア
カンボジア、ラオス、ミャンマーなど、アジアでも9カ国が後発開発途上国に認定されています。
無計画な農業開発によって森林が減少し、深刻な水不足が発生しています。また、産業発展によって工場が乱立し、汚染物質の河川流入や排煙などによる水質汚染、酸性雨などの問題も起こっています。
これらの影響は、農業だけでなく主産業となりつつある観光事業にも大きなダメージを与え、経済成長を鈍化させています。
大洋州(オセアニア地域)
オセアニア地域では、キリバス、ソロモン、ツバル、バヌアツの4カ国が後発開発途上国に認定されています。広い洋上に浮かぶ島々で形成された国は、美しい自然や貴重な生態系を生かした観光業が主流です。
しかし、観光客が排出する膨大な廃棄物を処理する設備も対策資金もなく、海や森で汚染が進み、観光資源を失いつつあります。
このように、後発開発途上国のような資源が限られた地域では、急激な人口増加や発展のために唯一の資源ともいえる自然環境に手を付けていますが、それが気候変動や汚染につながり、経済発展の妨げにもなっています。
3.経済成長と環境悪化の分断を図る「10カ年計画枠組み」
開発途上国の経済活動の悪循環を断ち切るヒントは、SDGsのターゲット8-4にあります。
「世界の消費と生産における資源効率を斬新的に改善させ、先進国主導の下、持続可能な消費と生産に関する10カ年計画枠組みに従い、経済成長と環境悪化の分断を図る」
途上国の森林伐採で得られた木材や農産物は世界中で消費されています。つまり、エネルギー燃料や食料を過度に消費する先進国にも大きな責任があるのです。そのため、先進国が主導となり世界の消費量と生産効率を改善させることで、途上国の森林減少や環境汚染のスピードを抑制できます。
この取り組みを国際的に定めているのが「持続可能な消費と生産に関する10カ年計画枠組み」です。2012年の地球サミットで採択され、各国から拠出された基金によって低炭素型社会システムの確立を目指す活動を推進しています。
これは、開発途上国が環境と共存しながら発展できるように、「持続可能な公共調達」「消費者情報」「持続可能な観光」「持続可能な教育・ライフスタイル」など具体的なプログラムを立て、先進国が資金、技術、知識、ツールを提供・共有してサポートするシステムです。
4.貿易で後発開発途上国を援助する「拡大総合フレームワーク(EIF)」
ほとんどの途上国では大きな産業がないため、木材や簡単な製品、農産物の貿易によって利益を得ていますが、現在の途上国とくに後発開発途上国では、市場からの遠さや人材不足、物流インフラの整備不足、生産技術の低さなどから、国際貿易において非常に不利であり大きな利益を得ることができません。
このような現状を打開しようと、SDGsでは貿易関連技術支援のための拡大総合フレームワーク(EIF:Enhanced Integrated Framework)を促しています。
EIFは、後発開発途上国に特化して貿易分野の支援を行う唯一の国際的な枠組みです。
先進国からの信託基金を原資として、世界銀行や世界貿易機関などの国際機関が共同で運営しており、後発開発途上国の貿易能力向上のために資金、計画、人材教育プログラムなどを実施し、輸出増加や貿易国を増やすなどの高い成果を上げています。
2001年からEIFに参加しているカンボジアの「カンボジア輸出多角化・拡大プログラム(CEDEP)」では、精白米・高品質シルク・モニタリング評価(M&E)に重点を置いたCESEP Ⅰと、キャッサバ・魚製品・ホスピタリティ分野に取り組むCEDEP Ⅱの2つのプログラムが実施されました。
カンボジアの商業省はこの取り組みに対して、女性のエンパワーメント、青少年の雇用創出、取引機会の開拓などが促進された上、様々な商品取引を可能にする環境を作り出せたと、非常に高い評価をしています。
5.まとめ
開発途上国の無計画な開発や伐採による環境破壊が、世界的な問題になっています。
しかし、資源に乏しい途上国では唯一の資源である自然環境に生計を頼らざるを得ず、資金も教育も不十分なため、有効な対策を打てずにいます。そして、自然破壊が引き起こす気候変動や汚染によって、森や海を失いさらに貧しくなるという事態に陥っています。
SDGsの目標8では、このような問題を解決するために国際協力を呼び掛けています。
先進国が主導となって、世界の無駄な消費を減らしながら途上国の生産効率を高めること、途上国の貿易能力を向上させて競争力と経済力を得られるように支援することなどが掲げられており、実際に成果を上げ始めています。