世界の水問題に貢献する日本の技術や取り組み SDGs~目標6.安全な水とトイレを世界中に~
厚生労働省による統計によると、2018年の日本の上水道普及率は98.0%にのぼり、日本は全国で不自由なく水道水を飲める数少ない国として知られています。
日本の水道の素晴らしさは普及率だけではありません。少し古いデータですが、2008年に発表された「水の安全保障研究会」最終報告書によると、東京都水道局の漏水率は3%であり、先進国の大都市の平均が35%であることを考えると、安全な水を効率的に運んでいることがわかります。
日本の技術力は、国内の水問題だけでなく、水不足が進む世界各国での水資源問題の解決にも必要不可欠であり、数多くの取り組みが行われています。
今回は、水不足解決を目指すSDGsと、SDGs達成へ貢献が期待される日本の水技術について詳しく解説します。
目次 [非表示]
1.SDGs目標6「安全な水とトイレを世界中に」とは
193カ国の国連加盟国が集まり、世界の様々な課題を解決するために設定した持続可能な開発目標がSDGsです。17の大きな目標と、それぞれを達成するために169のターゲットが設定されており、2016年から2030年の15年間で達成することを明記しています。
SDGsの目標6には「安全な水とトイレを世界中に」とあり、8つのターゲットが設定されています。中でも、水問題に関する技術と国際協力に言及しているターゲットは次の3つです。
6-4:効率的に水を使えるようにシステムを大幅に改善し、淡水の持続可能な採取および供給を確保する。
6-a:開発途上国における水と衛生分野での活動や計画を対象とした国際協力と能力構築支援を拡大する。
6-b:水と衛生に関わる分野の管理向上への地域コミュニティの参加を支援・強化する。
※一部抜粋・要約
世界の水問題が深刻化する中、淡水の持続可能性や水と衛生分野での国際協力、上下水道への地域コミュニティの参画などが重要であることがわかります。
この水資源分野において、日本は世界有数の高い技術力を有しており、水資源に関して政府開発援助として世界最大の金額を支出しています。日本の技術は、SDGsを達成するために欠かせない要素であると期待されているのです。
次章から、世界の水問題と、その解決に寄与している日本の技術、国際支援について詳しく見ていきましょう。
2.世界の水不足・水問題の現状
国際NGOウォーターエイドが発表した「2020年世界の水の現状」によると、世界で安全な飲み水を確保出来ない人は20億人。2050年には世界人口の半数以上にあたる50億人が水不足に苦しむであろうと予測されています。
水不足は特に開発途上国で深刻さを増し、国連児童基金(UNICEF)のデータでは、安全な飲み水を得られないことが原因で、毎年150万人以上の子どもが感染症によって死亡しているといわれています。
干ばつや地下水の枯渇といった水不足は、人体だけでなく農作物や家畜にも壊滅的な被害を与えます。そこから飢餓問題に発展する恐れもあり、国際河川の流域国間では水の使用量を巡る争いが絶えません。
今の世界には、水の衛生やアクセス、水資源の保全と効率化、国際協力など改善すべき問題が山積しています。
3.世界の水問題に貢献する日本の技術
世界一といわれている日本の水処理技術ですが、既に多くの国で導入が進んでいます。開発途上国の水不足解決につながる代表的な日本の技術を3つご紹介します。
海水淡水化技術
地球上の水の97%を占める海水をろ過し、飲用水や生活水として利用できる淡水に変える技術を海水淡水化技術といいます。
海水淡水化技術には蒸発法と、RO膜でろ過する逆浸透(RO)法がありますが、現在はエネルギー効率の良いRO法が主流です。RO法で使用されるRO膜は日本メーカーが世界で50%以上のシェアを占めています。
アメリカや中東、アフリカなど慢性的な水不足で苦しむ地域を中心に導入され、1日あたり6,000万トンの真水の生産に成功しています。
下水の浄化処理技術
海水と比較して3分の1のコストで飲み水を作れる資源として、下水が注目されています。日本で下水の再利用率は2%に留まっていますが、水資源が少ない中東地域では実に80%が再利用されています。
この下水処理に最適だと考えられているのが、日本が開発した膜分離活性汚泥法(MBR)とRO膜を組み合わせたシステムです。RO膜でろ過してから、下水中の病原性原虫類や大腸菌、ウイルスを活性汚泥と合わせて除去することできれいな水を精製できます。
海から遠く離れた地域でも使用できることから、北アフリカ、中東を中心に多くの途上国で導入が進んでいます。
生物浄化法(EPS)
自然界に生息する微生物の浄化能力を活かして水をろ過し、安全な水を作り出す浄水法が生物浄化法(EPS)です。
貯水槽に貯めた水を、砂利や微生物が住み着いた槽で何段階かに分けて浄化するシンプルな仕組みで、コストも安く、メンテナンスも容易なことから貧困に苦しむ開発途上国でも導入しやすいというメリットがあります。
この技術を応用したヤマハの浄化装置は、2019年6月時点で世界13カ国に36機設置され、1日で合計288,000リットルの真水を生み出しています。
4.日本の水技術を世界に伝える 能力構築支援策
先進国の支援により水インフラが整備されても、途上国内にはインフラを維持管理する技術がなく、設備を持続できないといった問題が浮き彫りになっています。水資源の安定的な供給のためには、途上国の自立を促す能力構築が欠かせません。
最後に、日本の政府開発援助(ODA)の実施機関である国際協力機構(JICA)が行う、水技術の能力構築支援策について紹介します。
水道分野の専門家派遣
JICAから厚生労働省に依頼する形を取り、地方自治体、水道局、民間企業などから選出された水のスペシャリストをアドバイザーとして毎年25~50名前後、途上国に派遣しています。
アドバイザーは、各地域の水道事業の発展段階や課題に合わせ、上水政策、水道事業、水道行政管理、水道行政・水供給、給水改善など多岐にわたる指導を行います。
研修生の受け入れ
ODAでは、日本に研修員を受け入れて教育も行っています。
2017年の受け入れは182名の研修生が日本で研修を受けており、対象国のニーズに即した集団研修や個別研修が進められています。
統合的水資源管理の実践と調整能力の強化
自然環境や生態系を損なうことなく、水資源による恩恵を最大限に享受できるよう計画的に管理する方法を「統合的水資源管理」といいます。
JICAでは、利害関係を超えた第三者として統合的水資源管理プロセスを促進し、国家や地域社会などの組織制度や慣習、政策を分析し、そのガバナンスに即した調整能力の強化を支援しています。
5.まとめ
今後深刻化する水不足問題を解消するソリューションとして、日本の水技術が注目されています。
例えば、飲み水として使用できる淡水を精製する海水淡水化技術、下水浄化処理技術、生物浄化技術などは日本が誇る水技術です。これらの技術を活用した装置は、中東やアフリカなどの水資源が不十分な地域で使用されています。
日本の技術力を活かし、ODAの実施機関であるJICAは諸外国への水道分野の専門家派遣や研修生の受け入れなどを行っています。自然環境を損なうことなく、誰もが安全で清潔な水を利用できる未来を現実にするためには、日本を中心とした先進国の技術協力が求められているのです。