世界の貧困撲滅をめざす投資サービス「マイクロファイナンス」とは SDGs~目標1.貧困をなくそう~
世界銀行が定める国際貧困ライン「1日あたりの生活費が1.9ドル未満」。この貧困ラインで生活している人は、2015年時点で世界に7億3,600万人ほどいると言われています。
紛争や女性差別、難民など貧困の理由は様々ですが、その経済状況から、彼らは医療や教育、金融制度などの恩恵を十分に受けられない状況にあります。
こういった貧しい人々を救う手段のひとつとして注目されているのが「マイクロファイナンス」です。
今回は、SDGsの第一目標「貧困をなくそう」と、貧困の原因、貧困層の救済効果が期待されている「マイクロファイナンス」について解説します。
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1.SDGs目標1「貧困をなくそう」とは
2015年に国連サミットで採択されたSDGs(Sustainable Development Goals」)は、直訳すると「持続可能な開発目標」という意味になります。
2030年までに世界が達成するべき17分野の目標と、それを達成するための169個の具体策(ターゲット)が設定されています。
そのSDGsの第一となる目標が「貧困をなくそう」であり、「あらゆる場所で、あらゆる形態の貧困に終止符を打つ」と宣言されています。
目標1には、7つのターゲットが設定されていますが、以下の2つのターゲットで金融サービスと投資について触れています。
1-4:2030年までに、貧困層および脆弱層をはじめ、すべての男性及び女性が、基礎的サービスへのアクセス、土地及びその他の形態の財産に対する所有権と管理権限、相続財産、天然資源、適切な新技術、マイクロファイナンスを含む金融サービスに加え、経済的資源についても平等な権利を持つことができるように確保する。
1-b:貧困撲滅のための行動への投資拡大を支援するため、国、地域および国際レベルで、貧困層やジェンダーに配慮した開発戦略に基づいた適正な政策的枠組みを構築する。
貧困から抜け出すためには、資産の創出や管理、金融サービスの利用が欠かせませんが、様々な理由からそれができない人々がいます。
このような経済的に不平等な立場にある人々を救う手立てとして、マイクロファイナンスをはじめとした貧困撲滅のための投資が広がっています。
2.経済的に不平等な立場にある貧困層・脆弱層
SDGsに記されている貧困層・脆弱層とはどのような人々でしょうか。
貧困層とは、冒頭でご紹介したように、1日あたり1.9ドル未満での生活を強いられている人々です。そして、脆弱層とは、ひとつの社会集団の中にありながら、大多数の他者と比べても、著しく不利な境遇に立たされている個人や集団を指します。
彼らの具体的な状況をみていきましょう。
貧しい国や地域に集中する貧困層
貧困層は南米や東南アジア、中央アジアなど開発途上国を中心に各地でみられますが、中でも特に深刻な貧困を抱えているのがサブサハラ・アフリカ地域です。
2015年の世界銀行の統計によれば、世界に7億3,600万人と言われる貧困層のうち、半数以上にあたる4億1,300万人がサブサハラ・アフリカ地域に集中しています。
理由として、内戦の頻発、教育施設の不足、不十分な医療体制、汚職などがあげられますが、それは過去の先進諸国の植民地化や奴隷制度の影響によるものです。
難民や先住民などのマイノリティー
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の調査では、2019年の時点で世界の難民はおよそ7,080万人と言われていますが、難民の中には自国の財産を失ったうえ、受入国で最低賃金以下での労働を強いられる人も少なくありません。
難民の84%を受け入れているのは開発途上国ですが、国の制度自体が未発達なため、教育や社会保障、金融サービスを受けられずに、さらなる貧困に陥る難民も多いのです。
また、世界には3億7,000万人以上の先住民がいると言われていますが、土地や資源の略奪、社会福祉が受けられないなどの問題が各地で起こっています。
男女格差による女性の貧困
世界ではいまだにジェンダー格差が大きく、13億人もの女性が公的金融機関に口座を持てず、金融サービスを受けられない状況にあります。
男女格差は開発途上国で特に大きく、女性の識字率の低さ、性差別的な習慣や法律などが要因となり、女性が自立し、事業を始めようとしても難しいのが実状です。
また、先進国であっても日本のように、雇用機会や賃金において不平等な国があることも、ジェンダー格差が深刻化する要因のひとつになっています。
3.貧困層を救う金融サービス「マイクロファイナンス」とは
マイクロファイナンス(小規模金融)とは、貧しい人々に小口の融資や貯蓄、保険などを提供する金融サービスのことです。低所得者の事業運営をサポートし、経済的自立と貧困脱却を目的としています。
マイクロファイナンスは、無償で与える慈善活動などとは異なり、支援を受ける人間が収益活動を行い、返済することが必要です。
具体的には、少額融資を元手にしたヘアサロンの開業や、マーケットへの生産物の卸業務など、さまざまな事業の支援を行い、収益の中から少しずつ返済していくことになります。
また、事業で生まれた資産を守り、将来に備える貯蓄サービスや、災害や病気に備える保険制度も用意されています。
マイクロファイナンスは、努力の成果として報酬が得られるため、自尊心や向上心が育まれ、前向きな形で貧困生活から脱却できると高い評価を受けています。加えて、多くの事業が展開されるようになれば、貧困地域が経済的に活性化するというメリットも見込まれます。
BNPパリバ銀行の調べによると、2016年時点でおよそ1億2,300万人がマイクロファイナンスを利用していますが、そのうち約84%は女性です。マイクロファイナンスは、女性の地位向上や経済的自立にも効果があると期待されているのです。
4.貧困撲滅をめざす国際的な投資機関MFIs
マイクロファイナンスを行う機関をMFIsとよびますが、これは「Microfinance Institutions」の頭文字を取ったものです。
世界に、およそ1万の機関があるとされ、政府機関系、民間非政府組織(NGO)系、銀行系といった形態があり、ほとんどの機関が開発途上国に拠点を置いています。
MFIsの資金源は当初、国際団体や政府系金融機関、民間からの寄付により運営されていましたが、持続的に事業を行える資金ソースではなかったため、銀行への事業転換やマイクロファイナンス投資ビークル(MIVs)といった資金調達用の投資ファンドが作られるようになりました。
マイクロファイナンスの直接投資は目利きが難しいため、専門プレーヤーを持ったMIVsに投資するとMFIsに投資できるという形式で、MIVsは一般投資家とMFIsを橋渡しする器としての役割を担っています。
現在では、一般の投資家による投資額が国際機関の数字を上回るほどになり、マイクロファイナンス機関の証券化商品は典型的な投資商品ともなっています。
5.まとめ
世界には7億3,600万人の貧困層がおり、その多くの人々は満足な社会サービスを受けられず、貧困からの脱却が難しい状況にあります。
SDGsは、目標1「貧困をなくそう」の中で、貧困脱却のための金融サービス「マイクロファイナンス」を推奨しています。
貧しい人々の自立を目的として小口の融資を行う「マイクロファイナンス」は、主に立場の弱い女性に支持され、新たな事業の拡大や将来の備えなどに活用されています。
マイクロファイナンスへの投資は世界で順調に普及しつつあり、1万を超える機関が設立されています。貧困層の努力が成果へと変わるこの仕組みに大きな期待が寄せられています。