日本の経済成長には女性活躍が必須!実現への課題とは? SDGs~目標8.働きがいも経済成長も~
2016年4月に女性活躍推進法が施工されましたが、日本ではいまだに女性の働きにくさや不平等を訴える声が後を絶ちません。例えば、結婚や育児により20代後半から30代の女性が労働市場から退出する傾向は顕著に見られます。
なぜ日本では女性の就業が進まないのでしょうか。また、日本経済はどのくらい女性を必要としているのでしょうか。
今回は、世界目標であるSDGsが掲げる目標「働きがいも経済成長も」を紹介し、日本経済の現状、女性の活躍が難しい理由、女性が活躍しやすい社会にする取り組みについて解説していきます。
目次 [非表示]
1. SDGs目標8「働きがいも経済成長も」とは
「SDGs(Sustainable Development Goals」)」とは、持続可能な社会を実現するために作られた世界共通の国際目標です。
2015年の国連サミットで採択され、2030年までに世界が達成すべき17分野の目標とその具体策となる169個のターゲットが設定されています。
環境問題や貧困、エネルギーなどあらゆる分野が取り上げられていますが、第8の目標「働きがいも経済成長も」は働く人の権利と経済問題を扱っています。その中で設定された12個のターゲットのうち、8-1と8-5は、日本の女性活躍にも大きく関係するものです。
8-1:各国の状況に応じて、一人当たり経済成長率を持続させる。
8-5:2030年までに、若者や障がい者を含むすべての男性および女性の、完全かつ生産的な雇用および人間らしい雇用、ならびに同一労働同一賃金を達成する。
※一部抜粋
要約すると、「一人当たりの経済成長率を持続させる」「すべての人に人間らしい雇用と平等な雇用条件を」ということです。
少子化が進む日本が経済成長率を持続させるためには、就業率が低い女性の活躍が必須といえますが、女性の働きにくさは未だに改善されておらず、大きな課題となっています。
まずは、日本の経済成長の現状と、女性の活躍がどのくらいの経済効果を生むのか見ていきましょう。
2.日本の経済成長率はマイナス
新型コロナウィルスの影響で2020年の経済成長率は世界的なマイナスが予測されていますが、日本の経済成長率はそれ以前からマイナスやそれに近い数字を記録しています。
まずは、その内訳を見ていきましょう。
日本の一人当たりの経済成長率
世界銀行によると、この20年の日本の一人当たりの経済成長率(前年比GDP成長率)は、1988年の6.79%をピークに下がり続けており、リーマン・ショックの影響を受けた2009年には-5.42%を記録。その後、2019年には0.67%まで持ち直しましたが、依然として低い水準を推移しています。
そして、みずほ総合研究所が発表した2020年の経済成長率予測は-6.0%。2021年の予測も3.4%と、コロナウィルスの影響によるマイナスを取り戻すには数年かかると見込んでいます。
日本の経済成長が停滞している原因
近年、先進国の経済成長率は全体的に低下傾向にありますが、日本は特に低い水準が続いています。例えば、2018年の日米欧の平均GDP成長率は2.2%でしたが、このとき日本は僅か0.3%でした。
日本経済が他の先進国よりさらに落ち込む理由は、主に次の3つが考えられます。
・少子高齢化
・需要不足、貯蓄増加(デフレ)
・産業のIT化、技術革新の停滞
多くの先進国では少子高齢化が進んでおり、生産人口が低下しています。日本も例外ではありませんが、移民受け入れや出生率の引き上げ政策に積極的ではないため、他の国より少子高齢化が加速度的に進行しているのが現状です。
また、日本の経済成長率低下は戦後から続くデフレーションも大きな原因だとされています。消費者は将来の不安から購入よりも貯蓄を選ぶため、消費が減ってさらにデフレが悪化するという状態から抜け出せません。
さらに、日本はIT産業や技術革新でも、後れを取っています。技術大国として成り立ってきた日本ですが、新たな産業となる技術革新が停滞しており、AIやビッグデータ、ロボット産業の波にのり、新たな価値を創造できるかどうかが、今後の経済活性化のカギを握るといわれています。
今後の日本は女性の活躍が必須
日本経済は労働力の拡充や技術革新が求められていながら、人材不足の状況にあります。
2015年の労働力調査によると、現在無職の就業希望者は413万人おり、そのうち301万人が女性です。それに、今よりもっと働きたいと考える追加就業希望の女性235万人と合わせると、実に536万人の女性が「働きたい」と希望していることになります。
国際的な学力調査である学習到達度調査(PISA)と国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)の結果から、日本女性の学力はトップクラスであることがわかっており、能力が高い人材が埋もれています。女性活躍政策がスムーズに進めば様々な経済効果が期待できるのです。
3.女性活躍がもたらす日本経済へのプラス効果
これまで見てきた通り、日本の経済成長のために、女性の就業促進が不可欠であることは言うまでもありません。
女性が労働市場に参加することで、日本経済にどのような好影響が与えられるのか詳しく見ていきましょう。
男女間の労働格差是正による経済効果
2014年のG20首脳会議で、日本は男女の就業率ギャップを25%縮めるとしていますが、これが実現すれば労働力人口は1.4%増加し、GDPは0.7%押し上げられると試算されています。2014年の日本のGDPは4兆8500億ドルであるため、単純計算でGDPが339億ドル押し上げられると考えられます。
また、男女間の労働参加率ギャップが大きい日本に対し、海外からも日本女性の労働力率向上に注目が集まっています。
例えば、国際通貨基金(IMF)は2012年に「女性は日本を救えるか?」という報告書を発表しました。
これによると、日本女性の労働参加率がG7(日本とイタリアを除く)並みになれば一人当たりGDPが約4%増加、北欧レベルにまで引き上げられれば一人当たりGDPが約8%増加するとされ、日本の経済成長のカギは女性の労働市場参加であると言及しています。
企業にとっても利益となる女性参画
女性は出産や育児により退職する割合が高く、積極的に女性を採用するのは企業にとってコストが大きいと考えられてきました。しかし、最近の研究では、女性が活躍する企業の方が総資産利益率(ROA)や全要素生産性(TFP)といったパフォーマンスが高いことが明らかになっています。
経済産業省のデータでは、男女間の勤続年数格差が小さい企業や再雇用制度がある企業、女性管理職比率が高い企業など、女性活躍を推進している企業で利益率が高いとしています。
これは、女性が働きやすい環境整備が従業員全体のワークライフバランス改善に繋がり、生産性という相乗効果をもたらしていることが要因だと考えられます。
4.女性が活躍しやすい社会にする取り組み
日本では女性の社会進出に対する課題が山積していますが、法律・制度の整備により、状況は改善の兆しを見せつつあります。
冒頭で述べた通り、2016年4月には女性の職場での活躍を推進するため「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」が施行されました。これは、企業による女性活躍のための行動計画策定を促すもので、行動計画に掲げた目標を達成した企業は助成金を受け取ることができます。
再就職を希望する女性をサポートする取り組みも始まっており、そのひとつがマザーズハローワーク事業です。マザーズハローワークは2017年時点で全国に189カ所あり、子育てと就業の両立を希望する女性に、求人情報や保育サービス関連情報を提供。総合的に女性を支援しています。
女性への支援だけでなく、男性の育児・家事参加を促す取り組みもあります。厚生労働省は、育児・介護休業法の周知活動や、男性の仕事・育児の両立をサポートするイクメンプロジェクトを推進しており、女性が安心して職場に復帰できるような環境整備を進めています。
まだまだ女性が働きやすい社会とはいえませんが、厚生労働省の発表によると、女性の継続就業率は2015年の53.1%から2020年には55%に改善。男性の育児休業取得率も2016年の3.16%に対し2020年には13%と改善しており、女性の労働参加が進んでいるといえるでしょう。
5.まとめ
2030年までに達成すべき世界目標であるSDGsでは、世界各国の経済成長率の持続を掲げています。
人口が減り、少子高齢化が進む日本で経済成長を遂げるには、就業率が低い女性の社会進出が必要不可欠ですが、男女間の雇用機会や賃金の格差、女性管理職比率の低さ、男性の家事育児参加時間の短さなどにより、女性の活躍はあまり進んでいません。
しかし、女性が労働市場に参加することで、日本経済や企業の生産性は大きく成長するとされています。
近年、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」をはじめとする様々な法律・制度が整備され、日本は女性が活躍しやすい社会に変わりつつあります。SDGs達成にも寄与する女性の社会進出。さらなる推進が期待されます。