配管系統図からみる冷却能力の計算方法
配管系統図には、熱源の発生箇所や既設冷却装置の仕様、原料の流量など、さまざまな情報が書かれており、そこから必要になる冷却能力や不足している能力の量を導き出すことができます。
適正な冷却能力を知り設備を見直すことは、工場の生産性を高め、機械の安全性を維持するためにとても重要なことです。
そこで、今回は配管系統図を使った3つの冷却能力の計算方法について解説します。
1.必要冷却能力の計算方法
必要冷却能力とは「対象物を冷やすために必要な熱量」を指す言葉です。そのため、計算には熱量計算式が使われ、「W」や「kW」が単位となります。必要冷却能力の計算は下記の式で求めることができます。
【必要冷却能力の計算式(熱量計算式)】
Q[kW]=①Vs×②Cs×③γs×④ΔT÷⑤t
Q:熱量(負荷容量)[kW]
① Vs:対象物の体積[m³]
② Cs:対象物の比熱[kJ/kg・℃]
③ γs:対象物の密度[kg/m³]
④ ΔT:対象物の温度差[℃]
⑤ t:対象物の冷却時間[sec]
実際の計算では、上記の式に加え外気からの侵入熱などを考慮した安全率を加算します(本記事では20%をみています)。
2.必要冷却能力が必要なシーンと計算例
配管系統図をもとに必要な冷却能力を計算する主な目的は、次の3つに分けられます。
- 1.既設機器の更新⇒既存冷却装置を確認する
- 2.生産量の変更・過剰能力の見直し⇒発熱量、原料の供給量から計算する
- 3.生産量の増加・環境の変化・冷却設備の追加⇒冷却能力不足分を計算する
規制冷媒装置を使用している、老朽化が進んだ、冷却能力が足りないなど、配管設備の冷却能力の計算を迫られる場面はさまざまです。必要な時に冷却能力の計算ができるよう、やり方を押さえておきましょう。
■1.既存冷却装置を確認する
冷却機能が十分でも、生産が終了している冷媒R22(HCFC)を使用している機器や、老朽化が進行している場合は、今後のメンテナンスを考えて機器を早めに更新することが大切です。
能力に問題のない機器を更新する場合は、特別な計算式は必要ありません。配管系統図や既存冷却装置の銘板から、型式と仕様、冷却能力を確認して同等以上のスペックを持った冷却装置に更新します。
機器の更新は機能を見直す良い機会ですので、冷却能力だけでなく、省エネ能力や使用環境への適正などを含めて幅広い視点で機器を選びましょう。
■2.発熱量や原料の供給量から計算する
生産量が大幅に減少した、省エネを推進するために過剰スペック機器を見直したいという場合は、発熱量や原料の供給量から「必要冷却能力」を導き出すことができます。
【計算例】
エチレングリコール原料を原料タンク内で20℃以下に温調する場合の必要冷却能力の計算方法
<配管系統図と熱源>
図のように温度が異なる2つの経路があるケースでは、経路A、Bそれぞれの熱量を計算し、合算する形で必要冷却能力を求めます。
<【経路A】の計算式>
前提:貯蔵タンク内にある30℃(室温)のエチレングリコール原料を、10L/minで20℃に冷却して原料タンクへ供給している
Q[kW]=①Vs×②Cs×③γs×④ΔT÷⑤t
① エチレングリコールの体積:0.01m³ ※
② エチレングリコールの比熱:2.38kJ/kg・℃
③ エチレングリコールの密度:1120kg/m³(20℃の場合)
④ 貯蔵タンク内と冷却後の温度差:30℃-20℃=10℃
⑤ 原料の冷却時間:60sec ※
※原料の流量10L/minは0.01m³/60secに分解して、①を0.01m³、⑤を60secとして計算します。
①から④を計算すると、
0.01×2.38×1120×10=266.56
ここに、外気からの侵入熱などを考慮して安全率20%(×1.2)を加算します。
266.56×1.2=319.87
最後に⑤冷却時間で割ります。
319.87÷60=5.3kW
【経路A】の熱量は5.3kwになります。
<【経路B】の計算式>
前提:原料タンクで温調されたエチレングリコール原料が混合タンクへ供給されずに、原料タンクへ戻り、20℃だった原料が25℃まで上昇し、5L/minで戻ってくる
Q[kW]=①Vs×②Cs×③γs×④ΔT÷⑤t
① エチレングリコールの体積:0.005m³ ※
② エチレングリコールの比熱:2.38kJ/kg・℃
③ エチレングリコールの密度:1120kg/m³(20℃の場合)
④ タンク内と戻ってきた時の温度差:25℃-20℃=5℃
⑤ 原料の冷却時間:60sec ※
※原料の流量5L/minは0.005m³/60secに分解して、①は0.005m³、⑤は60secとして計算します。
①から④を計算すると、
0.005×2.38×1120×5=66.6
ここに、外気からの侵入熱などを考慮して安全率20%(×1.2)を加算します。
66.6×1.2=79.9
最後に⑤冷却時間で割ります。
79.9÷60=1.3kW
【経路B】の熱量は1.3kWになります。
<全体の必要冷却能力>
全体の必要冷却能力は、経路AとBの熱量を合算したものになります。
【経路Aの熱量】5.3 kW+【経路Bの熱量】1.3kW=6.6kW
この配管系統で必要な冷却能力は6.6kWということが分かります。熱量計算式を計算するときは安全率を追加するのを忘れないようにしましょう。
■3.冷却能力不足分を計算する
生産量の増加や環境温度の変化などによって冷却設備に不満を感じる、あるいは老朽化を見据えて余裕を持たせたいという場合は、冷却能力の不足分を計算しましょう。
冷却能力の不足は何分間で何℃上昇するかを確認し、「温度上昇の熱量=冷却不足分」として考えます。
【計算例】
前提:下の配管系統図のような混合原料の反応工程にて、既設チラーの冷却能力が足りず、混合原料の温度が上昇してしまうときの冷却不足分(温度上昇の熱量)を計算します。
混合原料500Lを30℃にキープしたいが、30分で12℃温度上昇してしまう場合の計算式は以下の通りです。
Q[kW]=①Vs×②Cs×③γs×④ΔT÷⑤t
① 混合原料の体積:0.5m³ ※500Lをm³に換算
② 混合原料の比熱:2.1kJ/kg・℃
③ 混合原料の密度:950kg/m³(30℃の場合)
④ 貯蔵タンク内と冷却後の温度差:12℃
⑤ 混合原料の冷却時間:1800sec ※30minをsecに換算
①から④を計算すると、
0.5×2.1×950×12=11970
ここに、外気からの侵入熱などを考慮して安全率20%(×1.2)を加算します。
11970×1.2=14364
最後に⑤冷却時間で割ります。
14364÷1800=8.0kW
温度上昇の熱量は8.0kWなので、混合原料500Lを30℃のままキープするには、8.0kWの冷却能力の追加が必要です。
冷却設備に能力不足が発生する場合は、全体の必要冷却能力をカバーできるスペックの冷却機器への更新や、不足分を補うチラーユニットや熱交換器などを追加することで問題を解決できます。
3.まとめ
配管設備機器の必要冷却能力の把握は、冷却能力不足の解消や省エネ、メンテナンスの観点から非常に重要なものです。冷却能力の計算方法は目的別に3つの方法があります。
能力が足りている冷却機器の更新する場合は、配管系統図や機器の銘板からスペックを把握する。過剰能力を見直す場合は、配管系統図と熱量計算式を使って必要冷却能力を計算する。能力不足を感じる場合は、温度上昇率と熱量計算式を使って冷却に必要な追加能力分を導き出すことができます。
配管系統図の読み解きと計算式さえ把握していれば、難しいことではありません。冷却機器の選定には欠かせないものですので、ぜひ覚えておきましょう。