工場の騒音対策とクレームがきたときの対処法
環境省の報告によると、全国の地方自治体が受けた騒音に関するクレームの数は、2018年で16,165件と前年より50件増加しました。統計を取り始めた1972年の23,931件に比べると大幅に減少していますが、直近10年は16,000件付近を概ね横ばいで推移しています。
これらの苦情の内訳をみると、建設作業、工場・事業場から発生する騒音に関するものが約6割を占めており、工場が抱える音のトラブルは少なくありません。
そこで今回は、工場ができる騒音対策とクレームが来たときの対処法について詳しく解説します。
目次 [非表示]
1.地域の騒音規制基準を知っておく
もし工場に騒音に対するクレームが入り、裁判となってしまった場合に争点となるのが、「騒音規制法」による規制基準を超えていたかどうかというポイントです。
この騒音規制法とは、工場や建設現場から発生するノイズの上限音量を定めたもので、規制基準は地方自治体により異なりますが、東京都の工業地域を例に見ると以下のようになります。
<工場と隣地との境界線における音量の基準>
朝 | 昼 | 夕 | 夜間 | |
---|---|---|---|---|
工業地域 | 60db | 70db | 60db | 55db |
上記は工業地域の基準値であり、工場が住宅街や学校、図書館などの近くにある場合は、より厳しい基準が定められています。工場があるエリアや時間帯で細かく設定されているため、事業者はそれを守る義務があるのです。
また、騒音だけでなく機械から発生する低周波による健康被害や振動などによるクレームも発生しているため、合わせて注意が必要になります。
2.工場における3つの騒音対策
それでは、工場内でできる騒音対策について具体的に見ていきましょう。
音源となる機器に防音制振処理をする
まず、音の発生源となっている金属加工機械などの機器に対しては、音が外に漏れないような工夫が効果的です。例えば、防音ボックスの設置や振動を抑える制振処理が有効となるでしょう。
また、機械の振動が工場の建物全体を揺らしてしまうような場合は、床の基礎部分に防振ゴムを施行するといった対策もおすすめです。大幅な工事が難しい場合は、機器の下に防振マットを敷いても振動を軽減してくれます。
工場の天井や壁などに遮音・吸音対策をする
機器への防音対策を進めたものの、不快な音が低減されない場合は、建物自体への音漏れ対策も進めた方が良いでしょう。
簡易的な建物の場合、屋根や壁の遮音性は極端に低い場合が少なくありません。防音効果を高めるためには、天井や外壁、間仕切壁、外部に通じる窓やダクトなどの開口部に対し重点的な遮音・吸音対策を行うことが必要です。
例えば、壁や天井には遮音パネルの設置、グラスウールやウレタンスポンジの吸音材の貼り付けなどが考えられます。出入口を二重構造にする、二重窓にする、消音チャンバー・消音ダクトを導入するといった対策も効果的です。
作業の時間帯や窓の開閉ルールを設定する
防音製品の導入も有効ですが、工場の稼働ルール自体の見直しが必要なケースもあります。
深夜や早朝など、一般的に静かな時間帯に大きな音を発生させるとクレームに発展する可能性が高くなります。
スケジュールを見直し、大きな音が出る可能性のある作業は、日中に行う、また、その際には、窓を閉めて音漏れを防ぐといったルールを徹底することでもクレームの発生率を下げられるでしょう。
3.工場に騒音クレームがきたときの対処法
さまざまな騒音対策を行ったにも関わらず、苦情が入ってしまった場合はどのように対処すればいいのでしょうか。ここでは、3つの対処法について解説していきます。
自治体の騒音調査に協力する
多くの場合、クレームは直接工場に寄せられるのではなく、自治体などに入ります。クレームを受けた自治体は、数日間にわたって工場内外で騒音調査を行い、規制基準をきちんと守っているか確認していきます。
調査となれば、業務に支障が出る可能性もありますが、感情的になれば調査が長引く可能性があるため、積極的に協力するようにしてください。法律上問題が認められた場合は、必要に応じて改善勧告・改善命令などが出ることがあるため、速やかに対応しましょう。
原因を特定して改善する
自治体の騒音規制基準を守っていても、近隣住民からクレームが入ることも少なくありません。
周辺住民が不快に感じるのは機器の騒音だけではなく、従業員の話し声や積み下ろしに来るトラックの音、機械から発生する低周波なども考えられます。
基準を守っているからといってクレームを無視するのではなく、原因を追及し改善していきましょう。
常に誠意をもって対応する
工場運営は、地域住民の理解が必要不可欠です。工場の騒音問題や低周波問題は非常にデリケートな問題であり、反対運動やボイコット、裁判などに発展する可能性もあります。
また、音に対する苦情は自社工場だけの問題ではなく、製造を依頼しているクライアントにも及ぶことがあり、クレーム対応を誤ると、取引停止や多額の慰謝料、設備投資を迫られる可能性も考えられます。
クレームが入った場合は速やかに対応し、原因や改善策などについて直接住民説明を行うなど、常に誠心誠意対応することが大切です。
4.まとめ
工場を稼働させる上で切っても切れない問題が「騒音」です。騒音規制法によって地方自治体ごとに騒音の基準値が設定されており、その音量を下回ることが求められます。
自社工場から出る騒音を抑制するためには、機械に防音ボックスや防音マットを用いて防音・制振処理をする、遮音パネルなどを活用して建物自体に遮音対策をする、工場の稼働ルールを見直すといった対策が有効です。
対策を行っても苦情が入ってしまった場合には、自発的に騒音調査に協力して原因を調査し、きちんと対応するようにしましょう。