【事例】世界のスマートシティ10選~欧州・アメリカ・アジア・日本まで~
世界的に注目を集めているスマートシティ。最先端の情報技術を利用して、環境問題の解決や持続可能な社会の実現を目指す街づくりのことです。
情報通信技術(ICT)などを活用するスマートシティの取り組みは、この20年で世界各地に広まり、環境、交通、健康、経済など、地域の特性に合った様々な形で街の暮らしを大きく変えています。
今回は、スマートシティとは何か、世界の各都市におけるスマートシティの事例、日本の最新スマートシティ構想を紹介していきます。
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1.スマートシティとは?
スマートシティとは、情報技術を駆使して諸問題を解決する新しい街づくりの在り方です。
いま世界では、人口の約半分が都市に集中しており、今後さらにその傾向が強まるといわれています。各地の都市では人口密集による環境汚染や二酸化炭素(CO2)排出量の増加、インフラ状況の悪化、エネルギー不足などが深刻であり、持続可能な社会に変わらなければなりません。
その解決策として、スマートシティが広がりつつあるのです。
街のあらゆる機能をICTでつなぐことで、交通の充実やエネルギー供給の効率化、社会インフラの維持管理が可能になり、環境への負荷も軽減されています。地域ごとに特性や技術、重点をおくポイントに違いがあり、さまざまな手法が見られるのも特徴です。
あらゆる事例を知り、有効な情報を活用・応用して、世界全体でサスティナブルな生活が当たり前となる未来を作りあげていきましょう。
2.スマートシティの始まり、欧州の3つの事例【世界の事例1】
スマートシティは2000年代のヨーロッパで始まりました。歴史的に各都市の自治性が高く、EUの積極的なスマートシティ投資が街づくりを後押ししています。代表的な3つの都市の取り組みをご紹介します。
アムステルダム(オランダ)
アムステルダムでは、世界の都市に先行し2009年6月に「アムステルダム・スマートシティ・プログラム(ASC)」を立ち上げ、スマートシティ化のためのプロジェクトを始めました。
ASCは持続可能なモビリティや公共空間、オフィスなどの構築をテーマに、質の高いエコロジカルな生活と経済成長の両立を目指すものです。同時に、「2025年までにCO2排出量を1990年比で40%削減する」という目標も掲げています。
地域住民、政府、教育研究機関、企業が連携するため非常にスピーディーで、開始からたった1年で、電気自動車、ビルエネルギー管理システム、スマートメーター、スマートライティングなど、環境やエネルギー関連のパイロットプロジェクトを20も実施しています。
ヘルシンキ(フィンランド)
ヘルシンキでは2016年、MaaS(Mobility as a Service)を世界で初めて実用化しました。MaaSとは電車やバス、タクシーなどの交通手段を1つのシームレスなサービスとして捉え、情報の検索から予約、決済まで統合して行うシステムです。
MaaS導入の一助となったのが、2011年に開設された都市情報の提供サービス「Helsinki Region Infoshare (HRI)」です。HRIでは自治体の交通データや建造物情報などのオープンデータが自由に利用できるため、MaaS開発の際には大いに役立てられました。
HRIのデータは交通のみならず、観光や教育、ヘルスケアに至るまで、あらゆる分野のサービス開発に活用されており、さまざまなエコシステムが構築されています。
バルセロナ(スペイン)
2000年代からスマートシティ化を始めたバルセロナも先進都市のひとつです。街中に設置した各種センサが集めたデータを「センティーロ(Sentilo)」と呼ばれる統合システムで一元管理しています。
そのデータによって、散水・噴水・上下水道システムの自動制御や、街路灯の点灯制御、交通渋滞の抑制や駐車車両の自動管理などが実現し、エネルギーや水資源の節約、スムーズな交通利用や大気汚染の削減につながりました。
またバルセロナはICTの活用だけでなく、「スーパーブロックプロジェクト」も有名です。1つの街区(ブロック)内への車の乗り入れを制限し、車道よりも歩行者スペースを広げる取り組みです。
ブロック内の空間は住民のソーシャルスペースとして活用され、自動車事故や大気汚染の改善と同時に地域コミュニティも活発化され、成果を出しています。
3.スマートシティ先進国アメリカの4つの事例【世界の事例2】
アメリカではスマートシティへの関心が強く、いくつもの企業が大規模な投資に乗り出しているのが特徴です。その中でも代表的な4都市の取り組みをご紹介します。
ニューヨーク
世界最大級のスマートシティのイベント「Smart City Expo World Congress」で、ニューヨークは2016年にベスト・スマートシティに選ばれました。
ニューヨークでは2012年に制定された「オープンデータ法」に基づき、市民の自由なデータ活用を推奨する「NYC Open Data」や、公衆電話をWi-Fiのホットスポットに置き換えるプロジェクト「LinkNYC」などの取り組みが行われています。
また2005年から始まったニューヨーク史上最大とも目される再開発、「ハドソン・ヤード再開発プロジェクト」では、街中のビルと新たな施設をネットワークでつなぎ、NYスマートシティの拠点とされる予定です。
各所のセンサから、歩行者の流れ、大気の状態、住民の行動や健康状態、リサイクルの現状、エネルギーの使用状況などのデータをリアルタイムに収集し、省エネや環境問題の改善に役立てる狙いがあります。
シカゴ
全米初のIoTを活用したスマートシティプロジェクト「Array of Things (AoT)」を2015年に始め、現在も進行中のシカゴ。大学や地方自治体、市民が協力し、街中に設置したセンサで、都市に関するリアルタイムのデータを収集しています。
情報を収集するセンサ群は3つのグループに分けられています。1つめは温湿度や振動、音圧などを計測する「環境センサ群」、2つめはCO2やオゾンなどを計測する「大気センサ群」、3つめは光の強度や赤外線などを計測する「光・赤外線センサ群」です。
これらのセンサ群で収集したデータは、オープンデータとして公開され、大気汚染や騒音、渋滞、ヒートアイランド現象などの解決が期待されています。
コロンバス
コロンバスは、全米で最も先進的なモビリティ構想を持つ都市を選出するコンテスト「スマートシティ・チャレンジ」で優勝した都市です。2017年に開始した「Smart Columbus」プロジェクトは、中小都市におけるスマートシティ化の先駆けとなりました。
2018年には「Smart Columbus」プロジェクト全体を統合的に管理するオペレーションシステムが完成。このシステムは市内に設置した1100個のセンサからデータを集約し、交通上の課題を解決することを目的に開発されましたが、今では食品関連や医療関連にいたるまで幅広く活用されています。
街ではデータプロジェクトと同時に、自動運転EVのシャトルバス運行やトラック隊列走行などの新技術も導入され、日々進化を続けています。
サンディエゴ
「2035年までに電力消費の100%を再生可能エネルギーにする」という大きな目標を掲げるサンディエゴは、2012年からスマートシティプロジェクトを本格化させており、国内外から高い評価を得ています。
サンディエゴ市、カリフォルニア大学、米国海軍、エネルギー関連企業、ICT関連企業など120社以上が参加するNGO団体「Cleantech San Diego」が中心になり、アメリカ有数の軍港サンディエゴ港の太陽光パネル導入、自動車の充電ステーションや、自転車のシェアリングシステムの充実などに取り組んできました。
2016年には市のEV数は2万1710台、充電ステーションは1092基、再生エネルギー率は33%を達成し、カリフォルニア州が2020年までにと掲げた目標を4年も早く実現しました。
その結果、2012年には11位だった、環境技術・施策に関する米国都市ランキング「U.S. Clean Tech Leadership Index」で、2017年には4位にランクインするなど、さらなるスマートシティ化が進んでいます。
4.スマート国家を目指すアジアの2つの事例【世界の事例3】
経済発展が著しいアジアの各都市では、国家の成長戦略の一つとして、スマートシティ化に取り組む様子がうかがえます。
浙江省杭州市(中国)
中国では地域の国内大手企業と連携し、経済特区や新区、開発区で集中したスマートシティ開発を行うスタイルが主流です。
例えば、浙江省杭州市では、2016年から市政府と市内に本社を構える大手EC企業が提携し、「ET City Brain」プロジェクトを立ち上げ、交通問題の解決に取り組んでいます。
市内に設置されている1700台のカメラの映像や、公共交通機関の運行情報、インターネット上の地図サービスやナビサービスを「Alibaba Cloud」に集約し、交通渋滞の緩和や交通事故の削減を進めています。
シンガポール
2014年からスマート国家を目指し「Smart Nation Initiative」を公表したのがシンガポールです。政府は、交通や住環境、高齢化といった、都市の抱える課題を解決するため、さまざまな検証を積極的に行い、2017年には世界のスマートシティランキングの首位に立ちました。
地形や建設物、交通インフラなど、国土全体を3D化した「バーチャル・シンガポール」は、リアルタイムで集まるデータを生かし、あらゆるシミュレーションが可能なシステムです。交通や環境への影響、太陽光パネルを設置した場合の発電量予測など、新たな政策やまちづくりにも役立てられています。
5.日本の最新スマートシティ構想「ウーブン・シティ」【世界の事例4】
数あるスマートシティ構想の中で大きな注目を集めているのが、日本の静岡県裾野市で2021年2月に着工された、大手自動車メーカーが中心となって開発する「ウーブン・シティ」です。
ウーブン・シティは、実際に人々が暮らす環境で新しい技術の導入や検証を行う都市開発プロジェクトで、最先端の技術が集結すると期待されています。
自動運転、MaaS、パーソナルモビリティ、ロボット、スマートホーム、人工知能(AI)など、暮らしを支えるあらゆる技術について、サービスの開発と実証を行い、新たな価値やビジネスモデルを見出すことを目的としています。
街に立ち並ぶのは、太陽光パネルを備えた、カーボンニュートラル木材を利用した建物で、自然環境との調和も大きなテーマとなっています。住民はAIによる体調管理や室内用ロボットなどの技術検証に取り組みます。
もちろん自動運転かつゼロエミッションのモビリティ開発も進める予定です。また、通信技術関連企業と行う新たな通信サービスの開発、エネルギー関連企業と行う水素エネルギーの活用、燃料電気発電機の設置など、需要の定着化や管理システムの構築も大きな研究課題だと発表しています。
今後の日本における、持続可能な暮らしのモデルケースを担う最先端都市になることでしょう。
6.まとめ
スマートシティとは、都市への人口集中から起こる環境問題の解決や持続可能な社会の実現のために、ビッグデータの収集やICTを活用する新たな街づくりのことです。
2000年代のヨーロッパから始まり、アメリカやアジアの大都市を中心に、各地の特色や地元企業との連携によって様々なスマートシティ化が行われ、実際にエネルギーの効率化や大気汚染の改善など成果を出しています。
日本でも自動車メーカーが主導となって、自動運転のモビリティやAI、ロボットなど、最新技術を取り入れた実験都市の開発が進められています。そう遠くない将来、国内でもスマートシティは現実のものとなるでしょう。