スマートシティの実現により得られるメリットと懸念点
スマートシティというと、あらゆるものがネットにつながり生活の利便性が上がるイメージが強いですが、実は、それに加えて様々な社会問題を解決できる力も持っています。
現代の日本が抱える社会問題には、少子高齢化や人手不足、エネルギー問題など多種多様なものがありますが、スマートシティはどのようなテクノロジーを用いて解決するのでしょうか?
そこで今回は、スマートシティの実現により得られるメリットと、それを支える最新技術や懸念点について解説していきます。
目次 [非表示]
1.スマートシティを実現させる技術とは
様々な恩恵を得られるスマートシティには、最先端技術の導入が不可欠です。まずは、スマートシティに利用される数多くの技術のうち、特に重要な3つを解説します。
スマートシティ構想の概要については「スマートシティ構想とは?日本の事例と我々にもたらす変化」をご覧ください。
ネットワーク技術
あらゆるものがネットに接続されるスマートシティでは、大容量のデータを高速で通信できるネットワーク技術が不可欠です。
自動運転のように高速移動中の通信が想定されるため、多数接続・低遅延といった強みを持つ「5G」や、低電力で広範囲の通信ができる「LPWA(Low Power Wide Area)」といった、利用シーンに合わせた通信方法が研究されています。
センシング技術
あらゆる情報を収集して分析に活用するスマートシティでは、センサーにより温度や気象、光線、気体、圧力など、様々な事象を計測して数値化するセンシング技術も重要です。
老朽化したインフラの検知、工場での検品、不審人物の識別、メンタルヘルスの管理など、様々な分野での活躍が期待され、小型で高機能、省電力、廉価なセンサーの開発がすすめられています。
また、集まったデータを適切に分析するための技術も必要といわれています。
AI技術
スマートシティにおいて、人間に代わって分析や判断、制御を行えるようなAI技術も研究されています。
AIが自分で学習して知識を獲得する「機械学習」により、車の自動運転や効率的なエネルギーマネジメント、都市における危険予測、病気の兆候の発見や健康管理など、これまで人間ができなかった、または見つけられなかった観点から状況を分析して、新しい解決策を発見してくれることが期待されています。
2.スマートシティの実現により得られるメリット
次にスマートシティ化のメリットについて解説します。利便性の向上に加えて、解決が期待できる社会問題とはどのようなものか見ていきましょう。
交通渋滞の緩和
人口が増え続ける都市部では交通渋滞の頻発が問題になっていますが、スマートシティ化で緩和できると注目されています。
車や道路にセンサーを設置して交通量や事故などのリアルタイムデータをAIが分析、信号を効率的に制御して渋滞の発生を防げるようになるでしょう。
また、緊急車両が通る道路の信号を操作して、事故現場や医療機関への到着時間を短縮させることも期待されています。
強固な防犯体制
スマートシティでは、AIと防犯カメラによる行動分析や顔認証技術、音声認識技術などを用いた防犯体制が提案されています。
例えば、防犯カメラの映像からたむろしている集団や逃げ惑う群衆を検知する、顔認識により要注意人物を割り出す、音声認識で悲鳴やガラスの破砕音の検知などが可能になります。
早い段階で異常を察知して音声警告や警察官の派遣につなげることで、犯罪の発生率を抑えられると考えられます。
高齢者のケア
内閣府の調査結果によると、一人暮らしをする高齢者は年々増加傾向であり、急病時の通報や搬送の遅れ、孤独死といった課題が懸念されています。スマートシティでは高齢者を守るため、ドローンによる訪問やネットによる遠隔の見守りなどもできるようになります。
例えば、エアコンや照明などの家電製品にセンサーを組み込み、一定時間動作がない、あるいは通常と異なる動作を検知したら、介護スタッフや医療機関に連絡を送るなど、介護者が不足していても高齢者をケアできる体制が整うでしょう。
さらに、センサーが収集した情報はビッグデータとしてAIの分析に使われ、高齢者の日常行動から認知症などの兆候を予測することができるようになるともいわれています。
効率的なエネルギー供給
燃焼時に二酸化炭素(CO2)を排出する化石燃料からの脱却が世界規模で推進され、日本でも太陽光や風力など再生可能エネルギーの安定的な供給が求められています。しかし、日本のエネルギー自給率は2018年時点で11.8%しかなく、限られたエネルギーを効率的に分配する必要があります。
スマートシティの各家庭では、屋根にソーラーパネルを設置してAIが使用状況を分析しながら無駄のないエネルギーマネジメントを行います。また、余剰分の電力は買い取られ、消費電力の多い地区に送られるようになるでしょう。
エネルギー消費の効率化は、結果的に化石燃料由来の発電量を抑え、大気汚染の改善、CO2排出量の削減にもつながるはずです。
迅速な防災対策の構築
スマートシティは、ヒートアイランド現象によるゲリラ豪雨や台風による土砂災害など、多発する災害の対策も迅速に立てられると期待されています。
AIによるエリアごとの詳細な降雨予測や効率的な避難計画の立案、センサーによる分断・水没した道路や河川水位の検知、ネットを使用した避難施設間での連携や食糧配給など、スマートシティでは様々な災害に対する対策が、より効率的に構築されることでしょう。
感染症の蔓延を防ぐ防疫システム
新型コロナウイルス感染症の蔓延により、防疫対策もスマートシティにおける重要な課題となると予想されています。
すでにアプリによる接触確認や濃厚接触者への検査促進なども行われていますが、今後は建物や公共交通機関に設置したセンサーや体温検知などのシステムも連動することで、より詳細な感染経路の特定が可能になるでしょう。
3.デメリットも?スマートシティの懸念点
スマートシティに用いられる技術が、住民にデメリットを生むと懸念する声もあります。どのようなことが懸念されているのか確認しましょう。
監視によるプライバシーの侵害
張り巡らされたセンサーやネット接続によって、あらゆる生活の情報が収集されるため、プライバシー侵害が不安視されています。
実際にカナダのスマートシティ計画「Sidewalk Toronto」では、都市のあらゆる場所にセンサーが設置され、水道の使用量やごみの排出量、人の移動に関する情報まで集められていました。また、中国では監視カメラとAIによるスピード違反の自動通報装置なども開発されています。
住民のプライバシーが確保されたスマートシティの実現が望まれています。
ネットワーク機器の故障やトラブル
停電による都市機能のマヒはすでに起こっていますが、すべてがつながるスマートシティでは、ネットワーク機器の故障やトラブルが起こった際に、都市機能の停止が大規模になることも考えられます。
大きな都市になるほど設備やシステムが複雑になるため、復旧までかなりの時間を要するでしょう。
こうしたトラブルの兆候を検知して未然に防ぐ体制を整えるとともに、緊急事態に備えてネットに依存せずとも最低限の生活を維持できる代替案を模索する必要があります。
ハッキングなどのサイバー攻撃
都市のあらゆる施設や機能がネットで接続されるため、サイバー攻撃への対策は必須です。
実際にアメリカでは石油パイプラインがハッキングによりデータをロックされ、解除に身代金を要求されたケースもあります。発電所やダム施設といったライフラインに直結する施設は特に注意しなければならないでしょう。
一部の企業によるデータの独占
個人と結びつくデータを一部の企業が独占することで、大きな権力を握る可能性が指摘されています。
ネット上での検索や購入といった行動はすべて履歴として記録され、個人のニーズを割り出すのに利用されています。プラットフォーマーのように強い立場にある企業がこれらのデータを独占すると新規の参入が難しくなり、健全な企業間競争の妨げになると指摘されています。
莫大なコスト
スマートシティの構築には既存のインフラとIoTなどの新たなテクノロジーを融合させる必要があり、そのための技術開発とインフラの整備・運用・維持に多額のコストがかかります。
コストの住民負担は賛同が得にくく、計画の見直しを迫られることも珍しくありません。
4.まとめ
スマートシティのメリットは利便性の向上だけでなく、交通渋滞や増加する単身高齢世帯のケア、エネルギー供給、災害・感染症対策といった社会問題に解決をもたらすことです。
そのためには、ネットワーク技術、センシング技術、AI技術を中心とした数多くの最新テクノロジーの組み合わせや発展が不可欠であり、日々研究が進められています。
一方でスマートシティには懸念点もあります。監視によるプライバシー侵害や一部企業のデータ独占、サイバー攻撃やネットワークトラブルによる都市機能障害のリスク、導入に伴う莫大なコストといった問題も課題となっています。
スマートシティの本格的な実現には、メリットとデメリットの両方を踏まえた新たな技術と住民理解が必要となるでしょう。