起こりやすいポンプトラブルの原因と解決法

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空気の混入や圧力の急激な変化など、少しのきっかけで誘発されるポンプトラブル。事前に予防対策を行い、事後にも直ちに対処すればポンプの損傷を抑えられるかもしれません。

今回は、発生しやすい5つのポンプトラブルと発生原因、適切な解決方法をお伝えします。

目次

1.知っておきたい代表的なポンプトラブル

ポンプは多くの工場で液体の移送・汲み上げ・撹拌などに利用されているため、停止すると工場運営に大きな影響を及します。

まずは、代表的なポンプトラブル5つについて確認し、次の章からそれらの解決方法についてご紹介していきます。

①.ドライ運転(空運転)

ポンプケーシング(ポンプの内部)や吸込み配管が流体で満たされていない状態でポンプを作動させると発生します。ドライ運転によって生じるトラブルには、ベアリングや羽根車・モーターの焼損が考えられます。

②.エア噛み

液体などの流体を扱うポンプの吸込み配管に気体が混入し、気泡やエア溜まりが発生している状態を指します。エア噛みが発生すると、十分な吐出圧や流量を得られず、ポンプの能力低下につながる恐れがあります。

③.キャビテーション(空洞現象)

ポンプケーシング内の局所的な圧力差により流体が泡の発生と消滅を繰り返す現象のことで、気泡が消滅する際に大きな衝撃圧が発生し、配管内部に大きなダメージを与えることを「キャビテーション・エロージョン(壊食)」と呼びます。その際、異常な振動や騒音が生じる可能性があります。

④.ウォーターハンマー

配管を流れている流体を急激に止める、あるいは急速に開放することで配管内に衝撃が発生する現象をウォーターハンマーと言います。衝撃音の発生や振動、配管機器の破損、配管の破裂を招くこともあります。

⑤.軸シール漏れ

モーター軸とケーシングの隙間をふさぐ軸シールから流体が漏れる状態を表し、十分な流量を得られなくなったり、流体が周囲に漏れ出す原因にもなります。

2.ポンプトラブル解決法~ドライ運転(空運転)~

ドライ運転(空運転)を行うと、ポンプそのものが破損してしまう恐れもあり、早めの対策が求められます。ドライ運転の対策は、タンクに対するポンプ軸の高さで変わるため、ポンプ軸が下にある場合と上にある場合に分けて解説していきます。

ポンプ軸がタンク液面より下にある場合

ケーシング内に自然と液体が流入されるためドライ運転のリスクは高くありません。

万が一、ドライ運転が生じた場合は以下の手順でエア抜きを行ってください。

  • ①.タンク内に液体を十分に充填する
  • ②.吸込み側の仕切りバルブを確実に開く
  • ③.エア抜きバルブを開き、液体が出てくるまでエアを確実に除去する

ポンプ軸がタンク液面より上にある場合

反対に、ポンプ軸が液面より上にある場合は、ドライ運転が発生しやすいため要注意です。ドライ運転を防ぐために意識しておきたいこととして、代表的なものを2つご紹介します。

呼び水やエア抜きを確実に行う

ポンプ運転の初期作業で呼び水やエア抜きを確実に行うことが重要です。呼び水でポンプとそれに連なる吸込管を液体で満たし、エア抜きバルブから液体が出るまでエア抜きを行いましょう。

ポンプ停止時の液体逆流を防止する

構造上、動力を停止すると液体が配管からタンクに逆流してしまいます。逆流すると毎回呼び水やエア抜きを行う必要性があるため、ポンプの特性に合わせてチェックバルブやフートバルブを用いて逆流を防ぐことが大切です。

3.ポンプトラブル解決法~エア噛み~

吸込み側配管と吐出し側配管に分けて解決法を見ていきますが、吸込み側の配管は特に気泡やエア溜まりができやすいため、注意が必要になります。

吸込み側配管は配管とバルブ接続に注意

吸込み側では配管とバルブの接続方法に注意する必要があります。

エア溜まりが起こりやすい配管を避ける

障害物などを避けるために配管を上に湾曲させて設置する鳥居配管では、構造上エア溜まりが発生しやすいため、避けなければいけません。

また、ポンプに向かって配管の勾配を低く設置している場合もエア溜まりができて吸上げ不良となる恐れがあります。ポンプへ向かっては1/100以上の勾配をつけて空気を抜く必要があります。

バルブ接続や異なる径の配管に注意

吸込み配管の途中に仕切バルブなどのバルブ類を設置する場合は、バルブを寝かせるとバルブハンドルに空気が溜まりにくくなります。

また異径管へ接続する場合は、偏心管を使用してエア溜まりの発生を抑えましょう。

吐出し側配管ではバルブを活用

吸込み側に比べエア噛みの発生要因は少ないですが、吐出し側の配管ではエア抜きバルブなどを活用して対策します。

また、配管接続部からの空気混入は発見が困難なため、リークしにくいフランジ接続を採用するか、ねじ込み接続ではシールを確実に行いましょう。

フートバルブは正しい向きに設置

逆流防止構造を持つフートバルブは、エア溜まりを防止するために有効ですが、正しく設置しないとうまく機能しないため、正しい向きに取り付ける必要があります。

密閉容器の頭頂部や鳥居配管には自動エア抜きバルブを設置

吐出し側配管では自動エア抜きバルブを設置できるため、鳥居配管や密閉容器の頭頂部にエア抜きバルブを設置することで対策が可能です。

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4.ポンプトラブル解決法~キャビテーション~

キャビテーション(空洞現象)により、キャビテーション・エロージョンが発生するとポンプや配管に深刻なダメージが生じる可能性があるため、発生する前に以下の対策をとると発生リスクを軽減できます。

ポンプは極力低い位置に設置する

ポンプを低い位置に設置することで吸い込み配管内の圧力低下を防ぎ、キャビテーションが起こりにくい状況を作ります。

圧力損失を小さくする部材を選ぶ

圧力損失を抑えるために、吸込み配管の口径を大きくする、配管の長さを極力短くする、継ぎ手やバルブなども抵抗係数の小さいものを選ぶなどの処置が有効的です。

液体は低い温度で流す

可能であれば内部の液体温度はできるだけ低い温度を保ちます。そうすると、飽和蒸気圧が小さくなりキャビテーションの発生を防ぐ効果があります。

5.ポンプトラブル解決法~ウォーターハンマー~

ウォーターハンマーも、配管などに衝撃を与え深刻なダメージにつながるため事前の対策が重要です。

配管径を大きく設定する

ウォーターハンマーは、配管内の圧力が急激に上昇すると衝撃が発生します。そのため、最大流量を超過する可能性がある場合は流速を遅くするために1サイズ大きい配管径を選びましょう。

ポンプ吐出し側配管にサージタンクを設ける

ポンプを急停止した際、流体が慣性力によって進み続けようとするのに対し、ポンプからの供給量が減って圧力が下がり、水柱分離が生じます。ポンプの吐出し側にサージタンクを設けると、水柱分離が誘発される前に流体を供給し、水柱分離によるウォーターハンマーのリスクを軽減できます。

急開閉するバルブ類を避ける

ウォーターハンマーは、急激な圧力の変動によって発生します。そのため、バタフライバルブやボールバルブなどの急開閉するバルブを避け、穏やかに開閉するグローブバルブやゲートバルブなどを使用することで、発生リスクを下げられます。

チェックバルブを使用する

チェックバルブを使用して流体の逆流を防ぎ、戻りウォーターハンマーを防止することが可能です。ただし、防止効果があるのはウエハー式やディスク式といったチェックバルブであり、すべてのチェックバルブが対応しているわけではないため、注意が必要です。

エア抜きバルブやリリーフバルブを設置する

配管上部にエア抜きバルブ、ポンプ吐出し側にリリーフバルブを設置することも効果的です。エア抜きバルブは水柱分離による、リリーフバルブは圧力変動によるウォーターハンマーの発生リスク軽減に役立ちます。

6.ポンプトラブル解決法~軸シール漏れ~

ポンプは、ケージング内の羽根車を回す動力としてモーターを使用していますが、構造上ケーシングと軸の隙間から液体が漏出してしまいます。

その液体が漏れ出ることを防ぐために軸シールを使うのですが、何らかの理由で軸シールから液体が漏れてしまうケースもあり得ます。ここからは、その対策についてみていきます。

適切な軸シールの選定と交換

軸シールには、メカニカルシールやグランドパッキン、オイルシールなどがありますが、摺動面(しゅうどうめん)の潤滑や主軸の冷却が必要であることに加え、摩擦が大きくなりすぎるなどの問題が生じるため、完璧に防ぐことは難しく漏れ量も増えていきます。

そのため、用途に応じて適切な軸シールを選定し、定期的に交換する必要性があります。

シールレスポンプを使用する

シールレスポンプには、マグネットポンプ、キャンドモーターポンプなどがあり、ポンプケーシングの壁を隔てて磁石などで動力を伝達するため、軸シールが必要なく液体が漏れる心配がありません。(下記はマグネットポンプの構造図)

そのため、引火性、爆発性、毒性のある液体や環境に重大な影響を与える強酸や強アルカリの液体など、漏洩すると危険な流体の輸送時に使用されます。

7.まとめ

工場で良く用いられるポンプですが、ドライ運転やエア噛みなど、さまざまなトラブルが発生する可能性があり、今回は代表的な5つの問題とその対策についてご紹介しました。

ポンプの設置位置や配管のサイズの変更、特殊バルブの使用やサージタンクの設置など、原因に応じた対策法も多岐にわたっています。

しかし、それぞれのトラブル発生原因には、対策方法が確立されていることから自社の工場の状況に応じた改善方法を導入することでポンプトラブルのリスクを下げることができます。

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